Are you alive? - シン・くりごはんが嫌い

……眠ってしまったのか？あまり前後の記憶がない。まだ視界がぼやけている。iPodに繋いだスピーカーからはレイジが爆音で流れ続けていた、Oh baby wake up Oh darling wake up……うるせえ。

白い背中をこっちに向けて、下半身だけを隠すようにシーツをかぶせた女が隣で寝ていた。尻の割れ目だけが見える。そうだ、こいつとヤク決めてシケこんだんだっけな。若干の息苦しさを感じながら、裸のまま、キッチンの方に向かった。

冷蔵庫を空けると、上半身からダランとした自分のモノまで冷たい風を感じた。よく見ると乾いた精液が陰茎から陰毛までびっしりとまとわりついている。気にせずに左手で乱暴にミネラルウォーターを取り出すと、グラスに移す事なく、ペットボトルのまま飲み干した。冷蔵庫の冷気を浴びるように立ち尽くす。ふぅとため息を一つついた。やけに喉が渇いている。飲んでも飲んでも喉の渇きが潤される事はなかった。

突然、視界に歓喜の表情を浮かべる女の顔が飛び込んできた。いきり立ったモノをつっこんでいたので、そのせいもあったのだろうが、口移しで女の舌に乗せたMDMAの効果は抜群だった。互いの舌をむさぼるようにMDMAを転がした後は、こっちも脳みそがとろけており、あまり覚えていない。ただ、七色の閃光が女の顔に向かって走っていくのを見ながら、レイジのリズムに合わせて腰を動かしていたのはなんとか記憶にある。視界がぼやけていく中で微かに見えたのは女の恍惚とした顔だ。女は突然唾液を口の両端から垂れ流して、白目を剥いた。唾液はやがて泡となっていたが、それよりも全身に感じる途方もない快感を加速させるために激しく腰を打ち付けていく。股の濡れ具合がいつもと違うと感じたが、どうやらホントに様子がおかしいと気づいたのは、その女の中にぶちまけた後だった。

自分が何をしでかしたのかを思い出し、手に持っていた空のペットボトルを白い絨毯に放り投げると、寝ていた女の方へと走り出した。嫌な汗が全身を伝うが、一向に頭が冴える事はない。

背中を見せている女の肩を掴み軽く揺すってみた。だらんと下がった腕とグラグラ揺れる頭、胸は軽く上下に動いているようだが、虫の息なのは誰が見ても明らかだ。頼む夢であってくれ、数秒がやけに長く感じられた。汗は滝のように流れるが酔いがさめるように頭はすっきりしてくれない、女の顔をまともに見る事も出来なかった。

震える手をそのままにしながら、今、自分がしでかしてしまった事を冷静に反芻する。窓に映った自分の顔は青ざめているが、それはヤクのせいだけではなかった。とりあえず今出来る事…電話だ…電話をしなくては…

枕元に置いてあったはずの携帯が無い。行為の激しさのせいで、床に落ちていた。急いで拾って、リダイアルからマネージャーの番号を探し、すぐにかけた。

……意外とマネージャーは冷静だった。最初は驚いていたものの、こういうヤク絡みの事は日常茶飯事なのだろうか、「すぐにその部屋を出ろ」「後はこっちでなんとかする」この二つがぼんやりとした脳みそから離れない。電話を切ると急いでパンツを履き、乱暴にジャケットを羽織ると、玄関に置いてある車のキーを掴み、その部屋を後にした。

車を走らせながら、物思いに耽っていた。クーラーをがんがんに効かせても汗はひかない。震えの止まらない人差し指を丸めて噛み、左手でハンドルを操作する。最悪だ、ヤクを決めて女と寝てオーバードーズ。マスコミが食いつくのは明らかだ。早く病院に連れてってやってくれ、そして、部屋をキレイさっぱり片付けておいてくれ、何事もなかったかのようにまた音楽活動をさせてくれ…………

しばらくしてから、マネージャーから電話が来た。こっちでなんとかすると言ったくせに契約違反でクビだそうだ。なんだよ、ヤク決めて女とヤルなんて誰もがやってる事じゃねぇか。女はどうなった？後始末は？と訪ねるとすぐに電話を切られた。

オレはその後逮捕された。警察の話では、部屋に全裸の女の遺体があったそうだ。しかも、その部屋に入った誰かが「死んでる」と警察に通報したらしい。オレがそこに出入りしていたという情報を得て、警察は事情聴取しに来た。オレの手の震えと顔色の悪さから、尿を調べると言ってきた、もうそこですべてを白状しようと思った。

何故だ？何故病院に連れてってくれなかったんだ？事務所は警察が来る前に何故オレをクビにした？その後に通報した男は誰なんだ？くそっ。女は死んでなかった…死んでなかったんだ……

と、昨日は仕事がヒマだったので、こんな事を妄想してたわけだが、それにしても気になるっ！日本の警察は酔って全裸になっただけの国民的アイドルを家宅捜索するくらい優秀なので、とっとと事件を解決してほしい。早くしろ！気になって気になって、昨日なんて6時間しか寝れてないんだ！！朝飯だって、ご飯とゴーヤ玉子とみそ汁とバナナ一本しか喉を通らなかったんだからな！あういぇ。