『ゴースト・ハンターズ』という邦題はいかがなものか。

一見、ベタなクリシェにいろどられたアクション・アドベンチャーだが、実はジョン・カーペンターの小技が細部まで行き渡った究極のバカ映画。『ランボー』や『インディ・ジョーンズ』などがヒットしていたハリウッドでジョン・カーペンター20世紀フォックスの元『ゴースト・ハンターズ』を作った。

86年の映画だが、当時としてはかなり衝撃的な映画だったのではないだろうか。相方の恋人が組織にさらわれたからそれを救い出すというシンプルなバディムービーだが、細部がよく出来ていて、中国という未知の物を映画に組み込み、カンフー、超能力、西部劇、お笑い、ラブストーリー、アドベンチャーと娯楽の要素がてんこ盛り。チャイナタウンのセットはとにかく見事で、色彩、小道具も含めすべてがパーフェクト。このセットはそのまんま20世紀フォックスに残され、今ではチャイナタウンのシーンを撮る度にこのセットが出てくるらしい。じっくりじっとりと演出するジョン・カーペンターも『ゴースト・ハンターズ』ではテンポを重視し、展開を早めた。ジェットコースターの様な早さでありとあらゆる見せ場を用意しラストまで駆け抜けて行く。

さて、『ゴースト・ハンターズ』だが、ひじょうにオフビートな展開だ。こうくるだろうという予想をことごとく裏切って行く。しかもそれのすべてがバカだからさらに驚く。強そうなキャラがあっけなく殺されるというのは序の口で、出てくる武器も笑うしかない。カンフーのシーンではキレイに見せたと思ったら、次のカットでは「明らかにそれじゃ人は倒せないよ」という動きになる。話の進ませ方も同様で、ご都合主義もかなり目立つがそれは全部計算して組み込まれてるのは間違いない。だからこれは金をかけまくったバカ映画なのだ。ジョン・カーペンターB級映画が多く、そのB級映画では幾分シリアスな演出をしているので、その反動で金を使ってバカな事をやりたかったのかもしれない。

ゴースト・ハンターズ』において一番オフビートなのは、主人公がまったく活躍しないという事である。『ニューヨーク1997』でスネークという強力なヒーローを生み出したジョン・カーペンターだが、『ゴースト・ハンターズ』では主人公とコンビを組む、ダメな相方が主人公になっている。とにかく見せ場は全部相棒の中国人にもっていかれており、ばしっとキメるところでも、間抜けな格好をしていて(それがなんなのかは観てからのお楽しみで)、肝心な時に何もしてないのだ。これはハリウッドの映画では極めて異例なものだろう。それを楽しそうに演じたのはジョン・カーペンターの常連俳優カート・ラッセルだが、彼にとってもこの役は挑戦的なものだったに違いない。何しろ、『ゴースト・ハンターズ』のカート・ラッセルは何もしてなくて、かっこ悪いのに、異常に目立ち、それが存在感となっているからだ。

サム・ライミにも通じるノリ、バカ度、何でもありの娯楽要素、とにかく笑えて楽しめる作品なのだが、1つだけ苦言を呈するならば、この邦題!なんだこれ!『ゴースト・バスターズ』と勘違いしちゃうだろう!