大砲の街 Cannon Fodder


大友克洋監督の『大砲の街』を観る。私は大友克洋の大ファンでマンガもほとんど買ってて、『AKIRA』も『スチームボーイ』も『メトロポリス』も全部DVDを買ってて、『老人Z』も『MEMORIES』も持ってる。しかも『MEMORIES』に至っては9800円のLDジャケット仕様だ。もはやバカ。まだ『FREEDOM』は観てないし、『ワールド・アパートメント・ホラー』も観てないし、ハッキリ言って『蟲師』も微妙だったから、そこまでファンじゃないのかもしれない(笑)

まぁ、大友克洋は基本的に好きなんだけど、1番好きなのが実は『大砲の街』だったりする。これは大友ファンからすれば「なんでだよ!?」って言われるかもしれないが、なんか好きなのである。

スチームボーイ』の元になってるのは有名な話だが、『スチームボーイ』よりもぜんぜん好きだ。『スチームボーイ』だと脚本に盛り込まなきゃいけない要素や物語を動かさなければいけないという制約に縛られて、今ひとつはっちゃけてない感じがあり、プロジェクトがデカ過ぎて、やっと完成にこぎ着けた雰囲気もあった。ところが『大砲の街』は蒸気が吹き出したりして、スチームパンクな世界観ではあるものの、これという物語がない。その箱庭的な世界観を突き詰める事と今までのアニメになかった映像を作る事だけに全神経を集中しているので、大友克洋の映像作家としての手腕が最も発揮されてるような作品になってる。

アニメというのは1枚の絵を動かす事から表現が始まってるわけだが、意外と1枚の絵の美しさにこだわった作品というのはそう無い。映画で例えるならば、小津安二郎とかキューブリックとかテリー・ギリアムのような作品があまりない印象がある。映画は写真と呼ばれたから分かるのだが、確かにアニメが1枚の絵にこだわり出したら、アニメでなくて、マンガで充分という事になってしまうから、仕方がないのかもしれない。だが大友克洋の『大砲の街』は絵画的な1枚の絵のおもしろさと絵を動かしてる感が見事なバランスで共存していて、動いている絵を観続ける事のおもしろさがびしびしと伝わってくる。

『大砲の街』は大友克洋が総監督を務めた『MEMORIES』というオムニバスアニメの一編で短編の作品。大友克洋自身が監督、原作、脚本、キャラクター原案、美術を担当している。ストーリーは無いに等しく、蒸気機関と大砲がくっついたゴテゴテした街に住む少年が朝起きて、寝るまでの1日を描いたもの。22分しかないのだが、凝った映像を映し続けるという事に究極にこだわった作品である。

まず『大砲の街』は全編ワンシーン・ワンカットで処理された作品。もちろんアニメでそれは不可能なので、コンピューターとセルを融合させたり、暗闇で切り替えたりして、全編を本当にワンカットで撮ったわけではないが、会話のシーンでの人物の切り返しのショットなどはまずない。絵画的な美しさの絵がまずあって、その絵の中をキャラクターが動いているという映像が基本的に続く。シークエンスが変わるというのも、カットが変わってるが、オーバーラップを使ったりしてカットが切れない。

さらに『大砲の街』はカメラワークがものすごい。クレーンショット風のパンアップ、パンダウンを多用し、背景がびゅんびゅん流れていく。特に中盤の360度パンはコンピューターで計算して、それを元に巨大な背景を書いて撮影されたらしい。アニメはリテイクが基本的にないのに、大友克洋が絵にこだわり抜いて、何度もリテイクを出したそうだ。

後はCGを使ったトラックバック/アップの表現。アニメは今はCGを使ってなんでも出来ると思われているが、実は手描きの頃は実写では可能な事がアニメで出来ないという事があった。実はアニメではトラックバックが難しく、『エヴァンゲリオン』でも出て来るが、殺風景な廊下のカットしか出て来なかった。アニメは奥に入っていくという映像が容易に出来ないとされている。アニメはオプチカルでズームアップするくらいしか奥行きを持たせられなかったが、『大砲の街』では少年が起きて、部屋を出て、廊下の写真に敬礼してから、トラックバックしてカメラが後ろに動き、リビングに行く。んで、リビングに行ってから、今度は玄関までトラックアップして、リフトに乗って出勤し、そこから今度は一気にパンダウンして、駅まで行くという一連のシーンを全部ワンカットでやっている。もちろん何気ないシーンで物語にはまったく関係無いが、この3分30秒のシーンは今観ても驚かされる。このCGによる背景のトラックバックは『イノセンス』の冒頭シーンや『スチームボーイ』でも当たり前に出て来るが、95年の当時は衝撃を与えた。

ここ数年でCGの技術も飛躍的に進化し、『名探偵コナン 戦慄の楽譜』でも、同じように360度パンやトラックバック/アップが出て来たが、この『大砲の街』の影響はでかいと思われる。実際、TVのアニメなどを観てから観れば分かるが、カメラの動きがまったく違うのは技術的な事がよく分かってない私でも一目瞭然だ。

『大砲の街』は大友克洋自身「もっと時間をかけたかった」「ちょっと実験的な要素が強過ぎた」と語っているが、この完成されてない感じが私は好きで、手描きアニメの表現としてはこれと『人狼』が限界点だと思う。こういう映像を作りたいという部分に集中しすぎてるきらいはあり、時間を引き延ばしにかかってるシーンも、そこ無理矢理入れてないか?っていうシーンもあるが、大友克洋が物語よりも絵にこだわりがあるというのが良くわかる作品でもある。

んで、私はこの『大砲の街』の絵コンテが収録された本も持っているが、またその絵コンテが素晴しい。絵コンテなのに、大友克洋のマンガ作品のようなクオリティがある事が信じられない。やはり大友克洋という人は絵がずばぬけて上手い人なんだろう。

『大砲の街』は作品としてまったく完成されてないが、大友克洋がアニメに対してどういう事をしたいのか?というのが明確に分かる作品。荒削りで洗練されてないぶん、手作り感があって、絵を動かしてるという事が良くわかる。オススメはしませんが『スチームボーイ』や『イノセンス』を観る前に観てる私としては、やっぱり思い入れも強く、衝撃度もぜんぜん違うんですなぁ。あういぇ。