崖の上のポニョ


試写にて『崖の上のポニョ』鑑賞。

映画として、ここまで展開がないか!っていうくらい展開がなく。ある意味で、漫画の『ぼのぼの』みたいな、のんびりほのぼのした感じのシーンが続き、世界観の説明もされないまま唐突に終わる。というのが単純な感想だ。んで、流れてくるのはポーニョ、ポーニョ、ポニョ、魚の子〜♪もう狂いそうになるくらい聞いた。

いろんなところで言われてるように宮崎駿版『人魚姫』というのが1番当てはまるだろう。魚の子であるポニョが5歳の男の子、宗介と出会う事で恋に落ち、人間になりたいと願う物語である。人間になるための危機や困難があるわけでもなく、宗介と運命的な描写があるわけでもなく、物語の展開は、ここまで最小限か!っていうくらいない。

冒頭と中盤がクライマックスになっていて、尻すぼみに物語が終わっていき、『千と千尋の神隠し』や『ハウルの動く城』と同じように後半が弱めだ。

ただ、この2本と同じように、1枚の絵というか、映像を構築するこだわりは頂点とも言える。むしろ、あの映像だけを畳み掛けるために物語を最小限にしたんじゃないかと思わせる。実際、物語は微妙だが、あの映像を観続けるという意味では、まったく問題ない。ワルキューレのような音楽にのせて、海の様子が映るシーンは『ファンタジア』のようでもあり、宮崎駿が『ファンタジア』のようなものを撮ったらいいんじゃないかと思わせてくれる。

セルアニメはもちろん今までのセルアニメなんだけど、背景が色鉛筆だけで書かれており、ジブリの短編や『ホーホケキョ となりの山田くん』を思わせる絵作り。

そして、海の描写、波の描写が芸術的で、『ファインディング・ニモ』を墓石送りにしそうなくらい美しく素晴しい。CGを使わずに手描きのセルアニメに戻したらしいが、中盤に出て来る、○○シーンは衝撃的で、それこそ『AKIRA』の鉄男暴走や『風の谷のナウシカ』の巨神兵が溶けるシーンが霞むくらいのクオリティ。あの作画だけでどれくらいのダメ出しと書き直しがされたのだろうと思ってしまう。

宮崎駿は質感を出すのがうまい作家だ。柔らかいものは柔らかそうに描くし、食いもんはとことんうまそうに描く。『崖の上のポニョ』ではそういう質感の描写のオンパレードで、それが好きな人にはたまらない作品だろう。

あと『崖の上のポニョ』はなんと言っても、ポニョが殺人的にかわいい。そのポニョを観てるだけで、すっげぇ幸せになれる。ただ、物語の後半で○○○が来て、ある意味で大殺戮ムービーなんだけど。

天空の城ラピュタ』や『風の谷のナウシカ』を期待してると肩すかしを喰らうだろうが、『千と千尋の神隠し』や『ハウルの動く城』など、引退宣言をしてからのちょっと落ち着いた作品が好きならば受け入れられると思う。『となりのトトロ』と『魔女の宅急便』の絵をパワーアップさせて、クライマックスを抜いた感じと言えば分かりやすいだろうか。

ただ、これはヒットすると思うよ、なんて読むのか分からないような『千と千尋の神隠し』やキムタクだけで話題をさらった『ハウルの動く城』ですらヒットしてるんだから、今回は『崖の上のポニョ』っていうスペシャルなキャラクターが居る分、直球でしょう。子供ウケバツグン!

家にある宮崎駿のインタビューを読み返したが、そこで宮崎駿が好きな映画について語ってるのがあって、そこで宮崎駿が挙げた作品が興味深くて、なるほどなと思ったんだけど。その作品ってのが、

チャップリンの作品群
『ストーカー』
ミツバチのささやき
七人の侍

なんとなく宮崎駿の作品群に共通する何かがある気がする。特に『ストーカー』と『ミツバチのささやき』は無茶苦茶共通したものがある気がする。ああ、久しぶりに『ストーカー』が観たくなったなぁ。

あういぇ。