人はフランス料理だけ喰ってるわけではない

「これは『グリーンデスティニー』と『マトリックス』を足して二で割ったような映画だ」
ロジャー・フリードマン

カソリック・スクールの女生徒が人を殺すのが宗教的に理解出来ない」
ミック・ラザール

「安っぽいクレジットタイトルによれば、この映画は『ショウ・ビジョン』で撮影されている」
「ショウ・ブラザーズの不滅のスター、ソニー千葉
ロバート・ウィロンスキー

こいつら全員死ね!!

これはパトリック・マシアスという人が書いた『オタク・イン・USA』という本の“『子連れ狼』を観ずに『キル・ビル』を語るなかれ』”という章の文章からの転記だ。

オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史

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その章でもマシアス氏は憤慨しているのだが、転記した文章は『キル・ビル』に対する評論。映画評論家ともあろうお方が『キル・ビル』の事についてなんも分かっちゃいないのが、ものすごく腹立たしい。というか、死んでしまえ。マシアス氏も本で指摘しているが、ミック・ラザールというヤツに至っては、コギャルの事も知らないし(つーか元ネタは『バトロワ』なんだが)、ウィロンスキーというヤツはソニー千葉が何人なのかも判別出来てない。

もちろんこれは日本においても同じような事が言える。おフランス的なそれこそ芸術的な映画こそすべてだという人にとってソニー千葉やリュー・チャーフィーなんかはどうでもいいのかもしれない。ぼくはカンフー映画や血しぶきが飛び散る映画、ゾンビが出てくる映画、復讐映画、怪獣映画、ホラー映画、プログラム・ピクチャー、マカロニウエスタンが大好きで、世間的には秘宝系と呼ばれるもんが公開されれば率先して見に行く*1。それでも一般的にこれらの映画は不健全であり、ガキ臭いものであり、良い歳をした大人が観るような物ではないらしい。ぼくの親父なんかも良く言ってて、その度に『悪魔のいけにえ』や『ゾンビ』を引き合いに出して論破するのだが、ムカつくのはフランス映画やアート映画は映画として最高で、そういうカンフー映画や怪獣映画はゴミみたいに扱うヤツらだ。死ね!死ね!

ぼくはゴダールも好きだし、ルイ・マルなんかには衝撃受けたし、それらのフォロワーである、ウォン・カーウァイレオス・カラックスもたまらなく好きなので、アート・フィルムと呼ばれる映画も率先して観るようにしている。というか、同じ映画なんだから、それに上も下もない。とにかくぼくは映画そのものが好きなのだ。だからぼくはチャウ・シンチーのCGの使い方もスピルバーグのCGの使い方も同じ“作家の映像美”として評価する。

『映画欠席裁判2』によると、「こんな映画、ラーメンと同じB級グルメだ」と『キル・ビル』の事を、おフランス系の評論家がけなしたらしい。それに対して、「人はフランス料理だけ喰ってるわけではない」と町山さんは反論したが、それは正しい反論で、この発言を聞いた全国のラーメン好きはもっと怒らなければならない。ラーメン屋で7年間働き、ガラからスープを作っていたぼくから言わせてもらうと「「ラーメンと同じB級グルメ」って、ラーメンを仕込むのに、どれくらい苦労すんのか分かってんのか!死ね!死ね!ファック!」である。

だから、『キル・ビル』がどういう事を意図した映画であるのかを分かってる人が批判するのは分かる。それも分からないで、腐り切った偉そうなメンタリティで、はいはいB級だからねーという上から目線はとにかく腹が立つ!クラシックもロックも同じ音楽だし、純文学もアメコミも同じ本なんだよ!とにかくこういう偏見や差別は、大卒が中卒を小馬鹿にしてるのと同じような憤りとムカつきを感じる。

いろいろと勝手な事も言ったが、このパトリック・マシアス氏の意見には完全同意だ。とにかく小難しい文章で映画を難解に語るようなヤツの意見なんて無視だよ!無視!

という事で『カンフートレジャー龍虎少林拳』鑑賞した。これがぶっちぎりの傑作。

リュー・チャーフィーとアレクサンダー・フー・シェンが共演し、脚本をバリー・ウォンが担当したというだけで観たのだけれど、これがホントに素晴らしい。チャン・チャンポンとアレクサンダー・フー・シェンが狂言回し的なコメディ部分を担当するという『隠し砦の三悪人』を彷彿とさせる展開に、リュー・チャーフィーがジェダイ・マスターよろしくな役回りで、ビシッと物語を締めるだけでなく、アクションシーンはジャッキー以降の小道具やセットを最大限に使った功夫で、ショウブラお得意の血みどろ復讐劇とは違う方向性を見せている(と言っても、ぼくが観たのはショウブラ映画全体の0.5%くらいだと思うので、他にもいろんなジャンルを撮ってたのかもしれないが)。

ショウブラのカンフーアクションはユニークなものが多いが、『カンフートレジャー』もすごい。まず、敵が無茶苦茶強く、リュー・チャーフィーやら、チャン・チャンポン、フー・シェンがそれぞれ戦っても勝てない。勝てないので、じゃあどうするかというと、なんと、その強敵に向かって、総勢6人で戦う!しかも、6人で戦っても互角!!この6対1のカンフーアクションは撮り方もコレオグラフもうまい。

やっぱり香港のカンフー映画はおもしろい。いつ観ても熱くなる。ブルース・リーブームだった時にいろんな映画館で上映してたんだろうが、ぼくもその時代に生まれたかったなぁ。

その後『少林寺英雄伝』鑑賞。こちらもぶっちぎりの傑作。

少林寺英雄伝 [DVD]

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デビット・チャンの少林寺もので、さらにロー・リエ演じるパイ・メイも出るという事で気になって観たんだけど、さすがの傑作。少林寺狩りをする朝廷から逃げ延びたデビット・チャンが、人々から寄付を集め、さらに達人と戦いながら弟子にし、朝廷の犬となっているパイ・メイと戦うという、こちらは『七人の侍』的な要素を含めた作品。

少林寺が燃やされるシーンはとてもリアルなミニチュア撮影で、最初、ホントに寺を建てて、燃やしたのかと思ったほどのクオリティ。もちろん小道具をたっぷり使ったカンフーアクションに、ショウブラ映画ならではの血みどろ残虐の描写もたっぷり。

もっともっとレンタルでショウブラの映画が増えれば良いなぁと思う。あういぇ。

*1:そのくせ映画秘宝をあまり読んでないのはホントに申し訳ない