うれし、たのしい、名家の没落

『斜陽』を読んだ。

斜陽 (ぶんか社文庫)

斜陽 (ぶんか社文庫)

戦後の背景を背負いながら、名家が徐々に没落していく様を描いた作品。戦時中に阿片中毒になった弟に手を焼きながらも、貴族中の貴族というカリスマ性のある母と寄り添うように生きてきた主人公の激動の人生。女目線、女言葉で書かれているが、これを書いたのはあの太宰治である。情景描写、季節感などは最近の小説に描かれることがあまりないので、やはり新鮮だし、何よりもクヨクヨしながらも、強く生きていく女の姿は圧倒的だし、感動を覚える。つっても『風と共に去りぬ』とか興味ないけど。

ま、名作中の名作なのだが、ぼくは、名家の没落というプロットに無茶苦茶弱いので、それだけで大満足だ。

他にも『地獄に堕ちた勇者ども』なんていう傑作もあるが、こう貴族が落ちていく話というのは何故かわからないが惹かれるものがある。ぼくのオールタイムベストである『バリーリンドン』も成り上がり貴族が落ちていく話だし。

他にも名家が没落していく話と言えば『偉大なるアンバーソン家の人々』がある。これは42年の映画だが、ぼくの中では映画史上の金字塔である『市民ケーン』よりも好きだ。詳しいことは前に記事にしたので、そちらを読んでいただければと思うが、異様な迫力に満ちた不死鳥のような大傑作だと思う。

ぼくが今回『斜陽』を読んで驚いたのは『斜陽』は『偉大なるアンバーソン家の人々』よりも後に書かれた小説だということだ。もちろん意識はまったくしてないだろうが、ぼくの感覚だと、太宰治というのは昔の人で、オーソン・ウェルズは革新的な技術で映画を撮った若い感覚の人なので、あきらかに『斜陽』の方が古いだろうと思っていた。いやぁ、そう考えると、オーソル・ウェルズというのは古典中の古典なのだな、今更ながら驚かされる。それでも、ウェルズの映画は今観ても革新的なアイデアに満ちていて、斬新なのだけれど。

そんなわけで、今、名作をスクリーンで再上映するというイベントがあるみたいだけど『偉大なるアンバーソン家の人々』をスクリーンで上映していただけないだろうか。ぼくみたいな屈折した人間にとって、名家が没落していく様を見ていくのはなんか楽しい。金持ちに対するやっかみなのだろうか?うーん。

あと、今日は宮粼あおいで映画化する『ソラニン』を読んだ。モノローグを多用した展開は嫌いじゃないし、キレイゴトをすべて排除した現実の生々しさみたいなものがダイレクトに伝わって来て、良い意味で胸くそ悪かった。人が死ぬことで立ち止まらない展開と、計算され尽くした構図とキャラクターと絵の上手さもいい。ぶっちゃけ、「傑作だ!」とか、「読んだ方が良い」とは思わないけど、良作です。ただし、映画に出来るのかどうかは疑問だけど、あういぇ。

偉大なるアンバーソン家の人々 - くりごはんが嫌い

ソラニン 1 (ヤングサンデーコミックス)

ソラニン 1 (ヤングサンデーコミックス)

ソラニン 2 (2) (ヤングサンデーコミックス)

ソラニン 2 (2) (ヤングサンデーコミックス)