「ブレラン」の“あの”カットが好きなあなたに『崖っぷちの男』

崖っぷちの男』鑑賞。

ニューヨーク45番街、ルーズベルト・ホテル。男はフロントでの世間話もほどほどにチェックインした。通りに面したながめのいい部屋をとると、着いて早々「こんな時間からはまずいか?」とボーイにシャンパンを頼み、メモ帳に文字を書き記した。ひといきつくと男は窓から身をのりだし、人ひとりぶん立ってられるかというホテルの外壁に立つ。そんな奇行はすぐに発見され、あっという間に45番街のいっかくは警察やマスコミ、やじうまであふれだした。果たして男の目的とはなにか……

ティーザーを見ただけで「どんな映画になるんだろう」というワクワク感がハンパない、ハイコンセプトな一品。その設定や展開から、自分自身を人質にした『交渉人』という感じだが、由緒正しきルーズベルト・ホテルを舞台に、そのかっこいい造型を援護射撃するかのごとく、カメラは窓ガラスをすり抜けたり、つねに地をはうように動いたりとトリッキーで、出だしだけで言えばヒッチコックやウェルズの名作群を観ているかのよう。

しかし、そういった作家指向のテンションはつづかず、中盤くらいから、いわゆるふつうのポップコーンムービーになっていく。

作品の性質上、これ以上はネタバレになるのでなにも書けないが、とにかくこの作品はルーズベルト・ホテルから通りを見下ろすカットが延々つづくという部分で評価されるべきであろう。スクリーンに栄えるカットの連続は、素晴らしい映画体験をさせてくれること必至だ。特に『ブレードランナー』の「高層ビルにぶら下がるデッカード」のカットに異常なフェティズムを感じているぼくにとっては至福の100分だった。

ハッキリ言ってつじつまがあわないというか、説明不足のせいで、観てるそばから置いてけぼりを喰らいそうになり、いまだに主人公の目的がよく分かってなかったりするのだが(それを取り巻く人たちの「本当は裏でなにをしていたか」というのも実はよく分かってない)、つぎからつぎに見せ場がやってきて、考えるヒマをあたえず、さらに一瞬たりとも飽きさせない、勢いのある作品。見終わったあとにだれもが「いやーおもしろかったねぇ!」というだろう。そういうことを念頭に置いて観ることをおすすめしたい。ランタイムの使い方もバツグン。ビールを飲みながらレイトショーで。

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