終末世界の中でやたら元気な親子が行く『ザ・ロード』

昼の11時45分より『ザ・ロード』鑑賞。新潟では今頃公開なの。それにしても11時45分からってなめてんのか。なんでこんな中途半端な時間からやるんだよ。おかげで昼飯が2時すぎになっちゃうじゃないか。まったく。

ピュリッツァー賞を受賞し、アメリカで大大大ベストセラーになったコーマック・マッカーシー御大の『ザ・ロード』の映画化。核兵器らしきもののせいで、世界が崩壊してから十数年後、人類の大半が滅び、生物は消え失せ、植物も枯れ果て、陽の光すら降り注がないほど雲におおわれ、生き残ったわずかな人間はほとんど人食い族と化している。そんな絶望的な状況の中、ショッピングカートを押してひたすら南下する親子を描いた作品。いちおう原作の感想はこちらに↓

この道を行けば…どうなるものかっ!『ザ・ロード』 - くりごはんが嫌い

終末ものと呼ばれるジャンルが好きな人間にとっては映像化に最適の題材である。確かに衣装からメイク、CGに頼らずロケを中心にした終末世界の映像はよだれがダクダク出るほどに美しく、ハリケーンカトリーナによる被害を受けた場所があると聞けばすぐにかけつけ「なんてことしてんのよ!」と地元の人に白い目で見られながら(実際はどうだったかさだかではない)撮影したという映像は確かに見応えあり。

しかも原作よりも描写がパワーアップしてるところもあって、エピソードもいくつか付け加えられていたのが大正解。特に食べられてしまった人間の生首と骨と臓物が道路にぶちまけられているのを映すところなんかは、無機質に肉の塊がごろんと置いてある感じでなかなかエグく「おいおいホントにこれ指定つけなくていいのかよ」といらぬ心配をしてしまうほどであった。無人だと思って入った家が実は人食い族の家で、地下室に食料のために蓄えておいた人間を見つけてしまうところなんかはホラーのようでもあり、その後に息子が食料に取られてしまうかもしれないと、二人が隠れた風呂場で(しかもバスタブは死体解体のために血まみれ肉片まみれ)父親が銃を突きつけて子供を殺そうとするなんてところは『ミスト』っぽく、暴走はあまりしてないが、全体的にそつなくまとめられてる感じはある。『ザ・ロード』を読んでだいたいの人が思い描いた世界はそのまんま映像になってると言い切ってもいいだろう。

ところが、どうも、ぼくの感性と合わなかったのか、その映像の切り取り方とキャラクターの描き方に不満が残った。

まず単純にロングショットが少なく、カットが短い。恐らく終末世界の中で「人間」を見据えて描きたかったのだと思うが、それにしてはかなり人間に寄り過ぎてるきらいがあり、あの濃ゆーいヴィゴ・モーテンセンの顔がやたらと映し出されて、途中から食傷ぎみになっていた。アクションシーンなんかはなかなかいい感じなのだが、googleで画像検索すると決め絵がたくさん転がっているのに、そのかっこいい絵の切り取りかたが早すぎて、映画の本編であまり役に立ってないように感じたのだ。そもそも「ショッピングカートを押しながら終末世界を歩き続ける」だけでも絵になるはずなのに、そこはさらっと描き、余計なことをかなりやり過ぎている。材料はおいしいのに調理のしかたが悪いといったところだろう。

キャラクター設定もいただけない。まず食料もほとんどない絶望的な状況でありながら親子がかなり元気だ。特に息子に至ってはかなり人間味がプラスされ、小生意気に映るほどであった。原作の会話シーンはソフトフォーカスにリバーブがかかったような描かれかたで、まるで「疲れたよ……パトラッシュ……もう眠いんだ…」というのが全編に渡って続いていく感じなのだが、これがベラベラと元気に喋りまくるキャラクターに変えられてしまった。そもそもあれだけ絶望的な状況で疲れ切ってるのに息子に「もっと喋れ」と強要する親はなかなか酷だと思うのだが……あと寒いから南に向かって歩くという設定なのに、川を発見して、全裸になってはしゃぎまくるのもどうかと……


わーい!川だ!川だー!

あと、名前も過去もない男に取ってつけたように過去をインサートしたのもどうかと思う。そもそもこの親子は自殺することも人間を殺して喰うということも基本的にはタブーとしていて、特に終末世界が訪れてから生まれたという設定の息子は行く先々で出会った人すべてを助けたい、どんなに人間が悪くなろうともそれでも人間を信じたいという終末世界のキリストみたいなキャラクターである。故に人間味を持たせなかった原作は絶望世界における新たな神話という感じだったのだが、それが一気に崩れてしまった。これは監督の解釈なのだろうが、そのせいで物語に深みが出なかったことは否めない。

というわけで難癖付けたくなるところもあるが、それでも終末ものとして満足。そもそも起伏のない物語をこれだけ見せれるように仕上げた監督の手腕はたいしたものだ。好きだからこそ厳しい目線で見てしまったかもしれないが、まぁ、これだったら、googleで画像検索して、その絵を見ながら原作を読んだ方がいいかも。あういぇ。

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)

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