『The Book of Eli』

ザ・ウォーカー』鑑賞。それにしてもこの邦題はなんとかならんかねぇ。『The Book of Eli』でいいじゃん。確かにネタバレなタイトルだけど、それ承知でアメリカの人も観てたんじゃないのかい。“ぶっくおぶいーらい”の方が響きかっけーもん。

核戦争か何かで地球から文明が滅んでしまった世界で、ある男が一冊の本を持って西にひたすら歩き続ける……というストーリーの時点でC・マッカーシーの『ザ・ロード』じゃんかー!って思った方……正解です!

ザ・ロード』は目的もないまま、南に向かって歩き続ける話だが、ジョエル・シルバーは恐らく、これにアクションと、歩き続ける理由を明確にしたらヒットするんじゃないだろうかと踏んだのかもしれない。まぁ、実際そうしたとしか言いようがない作品だった。

とはいえ『マッドマックス2』的な世界観の中、モッズコートを羽織って、リュックから剣を取り出し、敵を斬って斬って斬りまくるという設定の時点である意味サムアップな人も多いはず。主人公は何故か貴重なバッテリーをiPodで音楽を聴くためだけに使っていて、なぜそこまで音楽にこだわるのかっていうあたりも、全部ラストの伏線になってて小気味よかった。

退廃的な終末感の映像はさすが『フロム・ヘル』の監督だけあって、一枚絵として素晴らしいし、血しぶき飛び散るわ、切株あるわ、レイプあるわ、人喰い老夫婦や人食い強盗団が出てくるわ、『トゥモロー・ワールド』に出て来なかったものは、こっちで全部出て来るといった感じもよかった。多くはないがアクションシーンもあって、何よりも中盤の長回し大銃撃戦は縦横無尽にカメラが動き回って『ロイ・ビーン』を彷彿とさせる。

『ロイ・ビーン』や『マッドマックス2』と書いたが、実は『ザ・ウォーカー』は確信犯的に過去の有名な作品からの引用が多い。しかもかなり分かりやすいところからパクっていて、ちょっと前に日本に『リターナー』という映画があったが、ずばり方法論としてはアレと一緒だ。

しかも『ザ・ウォーカー』に引用されてる映画というのは『マッドマックス2』以外、物語に深く関わる重要な部分なので、タイトルを挙げた段階でネタバレになってしまうというから困ってしまう。ラストは二重の仕掛けがあって、そこで驚くんだけど、冷静に考えると、その二つとも名作からのいただきなので、「ああ、ラストは結局アレとアレだよね」というところで落ち着いてしまうんじゃないだろうか。

ぶっちゃけ脚本は穴だらけで、強引なシーンが多々あり、さらにラストで明かされる設定のせいで、「え?じゃあ、ここはどういうことなのよ?」ってシーンが増えたりするのもどうかなとは思ったが*1、それでも映画的な記憶に彩られた作品で、もしかしたら、ラストの引用オチも含め、「たとえ文明が滅びても、語り継がれるような名作/傑作をぼくらは決して忘れてはいけない」というメタファーだったのかもしれない。

そういう映画愛に満ち満ちた観点からいくと、ぼくはどうも『ザ・ウォーカー』を嫌いになれない。地味だし、主人公の心情は日本人には決して理解出来ないという欠点もあるが、なんか、またあの世界に行きたいと思わせてくれる。そういう意味で出来は悪いけど、なんか好きです。すいません。こんなふわふわ感じで、でも、映画観るとそういう風になっちゃうと思う。あういぇ。

Book of Eli

Book of Eli

*1:ただ、その設定のおかげで細かい数々のシーンが伏線になってるというところもある