本店からののれん分け『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』

こないだ観た『エンジェル ウォーズ』関連で職場の人とエミリー・ブラウニングの話になり、その人が「『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』という映画に出てて、そのときすごくかわいかった」と言っていたので、DVDを借りて観てみた。

そもそもぼくはファンタジー系の映画が苦手であり、『指輪物語』のヒットから派生したどうでもいい作品群にうんざりしていたので、当然ながらこの『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』という作品も、そのファンタジックな内容を想起させるタイトルだけでまったく観る気がおきずにスルーしていたのであった。なんて偏見、そして食わず嫌い……

あらすじは単純で裕福な両親に育てられた三人の子供たちが次々と不幸に見舞われるというもの。

その内容もさることながら、映像はまるでティム・バートンテリー・ギリアムを足したようなダークファンタジーであり、ドーンとした絵画のような一枚の画にこだわる両者に比べると、あの『キャスパー』のブラッド・シルバーリングだけあって、立体感にこだわっているのが特徴。こちらに飛び出してくるようなガジェットや箱庭感も含め、まるで飛び出す絵本のように楽しく、昨今の3Dブームを予言してるような作風で、もし続編が作られるとしたら3Dで制作されるのではないかというくらいギミックがてんこ盛り。CGを多用したのもこの場合は正解で、あくまでアナログ手作りにこだわるバートンとは違う方向性を見出している。

やや叙情的になってしまうバートン作品に比べれば、あくまでも娯楽としての姿勢を崩さない。不幸な物語と銘打ったり「この映画をやめるなら今だ」という前フリがあるにもかかわらず、主人公たちはそこまで不幸のどん底には落ちず、意外とほっこりした終わりかたであるところも特徴的だろう。もしバートンが監督していたら、もっとビターな終わりかたにするはずである。

さっきから、なんでバートン、バートンと名前を出しているんだ!?と思うかたもいるだろうが、実はこの作品、元々ティム・バートンが監督する予定であり、ジム・キャリーの役もジョニー・デップが演じる予定だったという。実際バートンの常連スタッフがこの作品には多く関わってる――――というのはウィキペディアの情報なんだけども……

よく監督や女優が賞をとったときに「これはスタッフのみなさんととった賞です」とスピーチするが、映画というのは監督の「組」と称されるように、スタッフもキャストも一丸となって、その作品に取り組むものである。同じ監督とずっと組んでいれば、自ずと監督が求めるような画もスタッフがちゃんと汲み取り、照明なり衣装なり美術なりを各々がきちんと揃えるはずだ。

つまり、この『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』という作品はティム・バートンという本店からのれん分けしてもらったブラッド・シルバーリングが数人の職人と共にその本店の味を再現したものなのだ。当然ながら支店オリジナルの味も少しばかり入っているが、あくまで本店の味に限りなく近いものを提供することにこだわっている。さらにその本店が個性の強い味にもかかわらずハリウッドの一線でヒットを飛ばし続けてるという奇跡のお店であれば、その味に沿って作ればヒットも少なからず見込めるというわけなのだ。ヘンリー・セリック監督作品なのにティム・バートンが撮ったと勘違いされる『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』みたいなものだろうか。

レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』はバートン作品が好きな人たちに自信を持っておすすめしても問題ない作りである。ハッキリ言えば『ジャイアント・ピーチ』のストーリーに『スリーピー・ホロウ』の画が合体したみたいな感じ、てなわけで観てないかたはどうぞ、あういぇ。

と言いながら、Twitterでつぶやいたらかなりの数とかなりの早さでリプライが飛んできたのだった。この映画がいかに愛されているか分かるのである。

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レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語 スペシャル・エディション [DVD]

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