娯楽のなかに光る作家性『白雪姫と鏡の女王』

白雪姫と鏡の女王』鑑賞。

誰もが概要くらいは知ってる「白雪姫」を超個性派監督ターセム・シンが映画化。

ターセム・シンといえば、馬が輪切りになる!といった超絶インパクトがある画を次から次に生み出す映像マジシャンみたいな印象があったのだが、のちにそれはいろんなアーティストの作品をそのままつかってることがわかり、ある意味ではタランティーノと方向性は一緒だったんだなと思った。

インモータルズ』では、そういった部分がいくぶんおさえられ、キューブリック的な左右対称映像をつかい、絵画的なキメ絵をこれでもかとふんだんにもりこんだ娯楽作で、血もブシュブシュ噴きだすたのしい作品だったのだが、今回の『白雪姫と鏡の女王』は、さらにそれをおさえ、普遍的な娯楽作にかなり寄せた。そのことにより作家主義が広い大衆性のなかで炸裂する。

前半はターセム節ともいえる、超絶エスタブリッシングショットやグリングリン動くカメラ、石岡瑛子とのタッグで得たゴテゴテした美術や衣装などがこれでもかと出てくるのだが、ジュリア・ロバーツという超強力な個性がそれらの世界観にまったく負けておらず、逆にユニークな演技を援護射撃するかたちで出てくる。

ここからも分かるように、今作でターセムはわざと「普通」の映画を撮るように心がける。物語の運びから、舞台調のアクションのつけかた、さらには役者の演技にいたるまで抑えに抑えておさまりのいいかたちになるようにしている。いつもだったら舞台が変わったところでガーン!というエスタブリッシングショットがきたり、アクションのシーンではカメラが旋回して、独自のモーション感覚がグニョーン!とかなるはずなのだが、今回はそれらをほとんど封印。だからといって彼が撮った意味になっているあたりのバランスも心憎い。

もはや独壇場ともいうべきジュリア・ロバーツのどやさ演技やキュートなリリー・コリンズの存在感、そして小人の造型などほぼ完璧だし、マペットが動き出したり、水の中から這い出てくるなど、いかにもなカットもあり、全体的に世界観はかなり作り込まれていて、見応えあるが、見終わったあとは演出が大人になったなと同時にあの歪なターセムはいなくなってしまったのかと一抹の寂しさも感じた。

逆にいえば、あれが苦手だった人にとって、ようやく心の底からおすすめ出来るターセム作品が出てきたということ。一風変わったファンタジー作品としておすすめ。「白雪姫」へのめくばせもしっかりしていて、大人から子どもまで楽しめること必至。特にエンディングの多幸感は今年最高峰ではないかと。