KOTOKOはCocco『KOTOKO』

KOTOKO』をレンタルDVDで鑑賞。

過去に受けた暴力によって、世界がふたつに見える琴子は人の善悪や暴力性と普遍的な日常の区別がつかず、妄想の中で息子を守るために暴力的になったり、自らを傷つけたりしていた。クソみたいな現実から息子を守らなければならないという強烈な愛からくる行動であったが、琴子は幼児虐待の疑いをかけられ、愛する息子から引き離されてしまう………というのが主なあらすじ。

Coccoの大ファンだったという塚本晋也監督は数年前から彼女で映画を作りたいとオファーを出し続けていたが、2011年にそれが実り、彼女をテーマにした短編作品集に参加。Coccoもそれを気に入り、そこから監督とふたりでストーリーを練り上げて行った。世界がふたつに見えるということや劇中で彼女がとる行動、精神世界はすべてCoccoからのアイデアだという。

塚本監督はずっと介護していた母を亡くし、そのいっぽうで息子の成長も見守って来た。こんな世の中で子どもを育てて行くことの不安や厳しさ、そして愛する者を亡くした喪失感。一児の母でもあるCoccoもその監督に共感し、強烈なコラボレートにより見事に映像として昇華した。彼女に歌に惹かれる男を塚本自身が演じているが、あれは塚本自身のことだろう。

さて、作品は強烈なノイズにぶれまくるカメラといつもの塚本節。もっといえば狂気に取り憑かれていくなどの部分もほとんど変わらず、それがCoccoという強烈な個性とぶつかり合い、火花を散らす。Coccoありきの企画ということだが、映像部分でいえば、塚本晋也の個性もふんだんに出ている。血もブシュブシュ出るし、肉体が変化するほど暴力を振るわれた男など、ありとあらゆるモチーフも登場する。

歌の中でしか平穏が保てなかったり、愛する息子と離ればなれになってしまった女が精神をおかしくして……というくだりからラース・フォン・トリアー監督の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』と『アンチクライスト』を彷彿とさせる。特に前者は歌手を使い、歌う部分はカメラをゆったり構え、日常の部分はカメラがぶれまくるなど、共通する部分も多い、それらを90分に凝縮したのが今作だと言ってもいいだろう。

だが、いつもの塚本作品以上に今回は説明がなく、かなり抽象的に描かれていて、テーマも多く、ひとことでは語り尽くせないほど多面的な魅力を持っている。含みをもたせるという意味では今までのなかでもダントツの深さだ。どのように受け止めるのか?どのように解釈するのか?がポイントとなるのだろうが、ストーリーラインもあまりないので、基本的にはCoccoの考えてること、Coccoがどのように世界を見ているか?というのを追体験することになる。そこからこの映画の考察がはじまるのであった。ちょっと過度に描きすぎてないか?と思わなくもないが、それによって誰しもが心の奥底に秘めてるものを一気にわしづかみにする。

というわけで、今までの塚本作品のなかでもかなり歯ごたえのある作品にしあがった。ぼく自身はこの作品をCoccoの作品というよりも、監督自身の喪失感や不安という視点から見た。故に塚本晋也演じる男が彼女の歌によって救われたとき、この作品のすべてを描ききったと思ったのである。

KOTOKO 【DVD】

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