『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』をレンタルDVDで鑑賞。細田守監督作。
大 傑 作!
オマツリ島に隠された秘密を探るミステリーであり、次々に消えていく仲間を巡るサスペンスでもあって、与えられたミッションをひとつひとつクリアしていくというアクションもふんだんに詰め込まれていて、随所に仰々しいリアクションと言葉遊びで笑わせるコメディでもあって、結束の固い仲間たちの絆がどんどん断絶していくというドラマがあり、さらにそれらをホラー的な演出でまとめあげるという多面的な作品で、わずか90分の間に映画は様々な表情を見せる。
それだけではなく、それら様々な要素をカットバックで平行して見せることで、一瞬の隙も飽きさせず、静と動のすさまじい情報量がものすごいスピードでこちらに迫って来る。セリフで謎解きしていたと思えば、次の瞬間にはボートレースのシーンが待ち構えていたり、巨大なお好み焼きを作ってるそばから仲間が一人消されていたりと、構成と編集が見事で一瞬でも目が離せない。
映像も凝っていて、3Dはトラックバックや建物が競り上がって来るシーン、巨大な魚、さらにPOV視点のみ使われ、立体的な箱庭を演出し、それ以外のセルパートは『ルパン三世 カリオストロの城』のような動きと表情でいかにもアニメらしさを表現。極端なクローズアップはなく、一つの画面に数人が何かをしているカットを多用することで、瞬時に作品内の情報を詰め込むことにも成功している。
作品の前半はポップでキッチュ。いかにもお子様と一緒に観るファミリー向け夏休み映画という雰囲気を持っているが、後半になるととたんにダウナーになり、観る者の心をズタズタに切り裂くような展開になっていくのが特徴で、特に「この世には「永遠の友情」なんてない。そもそも人間なんてつながりあえない。結局人間が最終的に行き着くところは「終わりと孤独」だけだ」という“現実”を、執拗にこれでもかと描いていく。それはまるで傷口に塩をズリズリすり込むようないやーな描き方であり、友情や希望を信じ切っている子供がこれに耐えられるのか?という凶悪な作品でもあるのだ。そう言った意味でこの作品は黒沢清の『回路』にも似ている。
実際映画の前半は、いわゆるジャンプ的な「友情・努力・勝利」が繰り返し描かれていくため、後半の部分と対になっており、その絶望感が際立つ。正直この後半部分はそこまでやらなくてもいいのではないか?というくらいの長さとしつこさで、主人公のルフィは孤独な戦いを強いられるものの、その戦いはかなりエグい。しかも「ゴムゴムの実ー!!」とか言ってただけに尚更だ*1。
最終的にルフィは落ち武者のようなビジュアルになり、満身創痍で立ち向かう。ここに仲間の力はなく、彼は結局、敵が示していた「孤独」に迎合してしまう形になる。敵は敵で「人と人とは繋がり合わない」ことを誇示するが、結局人は孤独に耐えられないものなのだということを言い切り、彼らの考え方がそのまま交換されるような形で映画は終わる。
作品の性質上、取ってつけたようなハッピーエンドが待っているが、映画を観終わってもその気分は晴れることなどない。『ONE PIECE』という器に盛られてるだけにそのダメージは大きく、結局『回路』と同じような答えにたどり着いてしまう。そのハッピーエンドも監督流の「アッカンベー」という風に解釈すれば、これほど残酷で意地の悪い作品などないのではないか。
というわけで、細田守が『ハウル』降板劇で受けた屈辱をそのまんまぼくらも受けることになる『オマツリ男爵』は予想以上の大傑作。もしかしたら『デジモン』や『時かけ』がそうであったように、彼はある特定のなにがしから自分のカラーを出すとうまくいくのかもしれない。今後は『コナン』や『クレしん』にもチャレンジしてほしいものである、あういぇ。
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*1:後半でも出て来るのだが、一瞬にして封じられる。