『セブン』の終わり方について書かれたエントリを読んで思い出した話


最近『セブン』がハッピーエンドなのか、バッドエンドなのかについて書かれたエントリが話題になっている。

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2012-04-03 - ゾンビ、カンフー、ロックンロール

これらを読んで、黒沢清監督の『ドッペルゲンガー』という作品についてのインタビューを思い出した。聞き手は篠崎誠監督だ。以下、そのインタビューの書き起こし。

篠崎「今度の『ドッペルゲンガー』という映画を観ていて非常におもしろかったのが握手をするっていうシーンがけっこう多かったなぁと思ったんですよ」


黒沢「いやー、そうなんですよねー。偶然なんですよ、そんなにあちこちで手と手を握り合わせようとは思ってなかったんですがね」


篠崎「例えば、思いつくままいうと、最初に人工の車いすの上に乗っかって、ユースケさんと役所さんが向かい合うところ、そのときに機械ごしに機械の手で握手をするってのがありますし、最初に会社から人工人体を盗み出すってときに佐藤ひとみさんに手伝ってもらって、へたり込んでる彼女に手をさしのべて、抱きおこして」


黒沢「そうですね」


篠崎「この映画で握手をすると人間関係が変わっていくという……恐ろしい(笑)」


黒沢「ああーそうですよねぇ、しかも通常の握手というより上下がありますよね、座ってる人と立ってる人」


篠崎「それがおもしろいんですよね。向かい合ってるんじゃなくて、柄本さんとの車との握手でも、かたや車にいて、柄本さんは外にいるから目線がななめになってるんですね。佐藤仁美さんを引っ張り上げるときもそうですし、ユースケさんの時も人工人体に座ってるのと立ってるから……」


黒沢「……なにかなぁ……いや、あのね、これ本当に偶然……っていうか、そこで何かを狙ったわけではないんですが、指摘されたから言うんですけど、こう立場が全然ちがう、そのときの心理状態もぜんぜん違う、それをまぁ立ってる人と座ってる人……それが、なんか、ある瞬間から……その瞬間(握手したとき)は平等になるっていうかね。じゃあそれで本当に同一にいるかっていうと、いや、それでガラっとそれまでの関係性が変わったりする……それのきっかけにしてたんですかね」


篠崎「それでホントに関係性が変わるのが一瞬だけいうのがやっぱりおもしろいですね。それによってある関係性が延々化されてしまうわけではなくて、そこが何か黒沢さんらしいですね。一瞬の連帯(笑) 主義主張でなんかいっしょになるんじゃなくて、思わず差し出した手を握ってしまう、握りかえしてしまう、んで、一瞬だけ成立してしまう連帯っていうんですかね――――――――昔、黒沢さんが書かれた文章だったか、話してるうちに出たのか、たとえば拳銃という小道具をつかうと、その距離がありますよね、撃つ人間と撃たれる人間のあいだの距離とか、チャンバラの場合は刀ひとつぶんの距離がある。たとえばセックスシーンのように身体を完全に密着しちゃうと距離がなくなる。そうすると自分は撮りづらいんだっていうことを言ってて」


黒沢「そうですね、ええ」


篠崎「たとえば役所さんと永作さんでも、もっとはじめから抱擁しててもいいわけですけど、でも抱擁からはじまるんではなくて、ある関係性が握手っていう、んで、握手するためには距離感が必要ですよね、それに象徴されるような関係性っていうのは……すごくこっぱずかしいんですけど、ひらたく言って「友情のはじまり」というか……」


黒沢「そうですね。まずはお互いを認め合うっていうことを、まぁ握手するかしないかは別として、ちょうど握手出来るくらいの距離にふたりがいる。ちょうど映画を撮っていて適当なサイズなんでしょうね。そのことによって、二人が少なくともお互いの存在を認め合うっていう表現にはストレートになる気がしますね」


ぼくの中で映画評論というのは、そこに映ってるものから何を読み取るのか?あのシーンの意図は何なのか?であり、それ以外の意見は正直どうでもいいと思っている*1

そして、そのシーンが何を意図しているのか?というのはそれこそ監督のコメンタリーやインタビュー、他の知識で補うしかないんだけど、この篠崎監督のように、撮った人が意識してなかったことでも、あるひとつの評論や指摘によって、撮った本人が「なるほど」と思ってしまうこともあるのだ。


――――そんなことをこのふたつのエントリを読んで思い出した。間違ってる/間違ってないは別にしても、そこに映ってるものから何かを読み取ろうとしている文章はやはりおもしろいし、ぼくは好きだ。登場人物に感情移入が出来なかった、想像してた映画と違った、理由がハッキリしないからつまらなかったなど、映ってる以外の部分と好き嫌いで映画が語られてしまうことが多いが*2、ぼくもこんな文章をいずれ書きたいものである。

ドッペルゲンガー [DVD]

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*1:とは言っても、それはそれで「感想」なので、おもしろい時があるんだけど

*2:もちろんぼくもやるし、それが悪いと言ってるわけではない