6種類の“マトリックス”が同時に味わえる野心作『クラウド アトラス』
『クラウド アトラス』鑑賞。「マトリックス」シリーズのウォシャウスキー兄弟(今は兄弟じゃないけど)と『ラン・ローラ・ラン』のトム・ティグヴァの共同監督作品。
6つの時代の6つの国の話が同時に進んでいくというとてつもない野心作であり、それが細かい部分で絡み合うというすさまじい編集がなされていてまずそこに驚く。
しかもそれがオムニバスではなく、すべてが「輪廻転生」という一本の線でつながっており、それを表すために全時代/全舞台のキャストを同じにするという大胆な手法をとったのだが、これが大正解。さすがに韓国人を特殊メイクで西洋人にやらせるというのはどうかと思ったが、カットバックで時代が飛んで急激に場面が変わったとしても顔が同じ人が出てくるので、同じ作品としてすんなりつながっていく。
それだけでなく、ひとつの時代の電話の相手が次のシーンで別の人につながったり、観ている映画のセリフがそのままオーバーラップして別の時代にとんだり、未来で読んでる手紙が過去の別なドラマのナレーションになったり、まぁ手が込んでること込んでること。あげく、そのひとつの時代の中で回想までして過去に飛ぶので、かなり複雑ではあるが、始まったら最後席が立てないくらいのスピード/情報量であり、そのジャンルはSF、ミステリー、アドベンチャー、ドラマ、ディストピアとまったく別なもので、文字通り6本の映画を同時に観ているような感覚に陥る。今までいろんな映画を観てきたがこんな体験は初めてだった。
たしかに圧倒的ですさまじい怪物のような作品である。『マトリックス』で革命を起こしたウォシャウスキーのさらなる力技に「映画史を塗り替える瞬間に立ち合ってるんじゃないか?」と思ったほどだ。しかしそれは2時間半くらいを経過したあとでもろくも崩れ去ることになる。
実はこの作品。これからどうなる?という解決の部分に差し掛かるところで広げに広げた大風呂敷を畳めずに半ば投げ出すような形で収束していくのだ。これが非常に惜しい。それが観客に解釈をゆだねる系のラストであれば心地良い余韻となるのだが、ミステリーだのSFだの、しっかりと起承転結があるプロットなので、ここぞという見せ場がすっぽぬけていきなりその後を見せられて「THE END」と言われた気分になった。この感じは『20世紀少年』のラスト二巻を読み終えたときと似ている。これを「2時間半もの間、まったく飽きさせずにすさまじい映像体験をさせてくれた」と取るかどうかで評価は分かれる気がする。
あと映像は画期的なんだけど、作品のテーマをとあるキャラのモノローグによって全部説明してしまうのもいかがなものかと思った。しかもよくよく考えれば細かいところで繋がってはいるものの、それ同時に進行させる必要なくない?と思った話もある。もっと言ってしまえば、全部の話は「自由意志を得るか得ないか?」という『マトリックス』であり、昔からやりたいことは変わってないんだなとも思った。
というわけで、かなり歪なバランスのトンデモ映画だが、映画史を塗り替える大傑作なのか?それとも金をかけた失敗作だったのか?は観た人それぞれで判断していただきたい。その価値は十二分にある。
ちなみにペ・ドゥナのおっぱいとブレラン的な街並と「回路」みたいな人が高いところから落ちてドーン!ベシャ!など楽しいシーンがいっぱいあるよ。あとエンドクレジットがはじまっても席立つなよ!!