信じることをやめないで『ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン』

『ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン』鑑賞。

新潟はどうもセカンド上映だったらしく、二週間限定ということもあってとっとと終わるまえに観ようと何気なく行ったがぶったまげた。今年のベストワンはこれで決まりだろう。六割くらい泣いてた。

100万人に一人と言われる声の持ち主、スティーブ・ペリー脱退後(脱退の理由は股関節を痛めたことによる関節疾患)、ジャーニーは新しいボーカルを捜していた。その後任として加入したスティーヴ・オウジェリーも喉を痛めて脱退。人気ドラマでカバーされたことによりiTunesで“Don't Stop Believin”がふたたびチャートインするなど、ボーカリスト不在による低迷から時代がジャーニーを求めはじめ、バンドはボーカリストがいないままレコーディングに突入。早急にスティーブ・ペリーに似た声の持ち主が必要だと、リーダーのニール・ショーンyoutubeで片っ端からジャーニーのカバーを歌ってる動画を検索。そのなかにフィリピンで彼らの曲を歌っていたアーネル・ピネダという男の歌唱力に衝撃を受け、すぐさま彼に連絡をとる………というのがあらすじ。あらすじというか概要だ。

膨大ともいえる映像の取捨選択がうまく、いちいちこちらの涙腺を刺激してやまない。特にアーネル・ピネダという男がチャーミングで、いかに昨今の人気の起爆剤になっているかがよく分かる。もはや彼のドキュメンタリーであるといっても過言ではないのだ。

いちばん最初のステージに立ったとき、彼は客席からアリーナまで縦横無尽に駆け回り、スティーブ・ペリーのそれとはまったくちがうアクションを見せつけた。そこにあたらしい何かを感じとったのだろう。彼はメンバーの心をグッとつかみ、彼の歌を支えたいと思うようになる――――そういったことが映像/編集からバシバシと伝わってくる。信じることをやめないでと歌っているが、そのような絵空事だけではなく、しっかりと夢をつかんだことへの代償や責任など、負ともいえる側面を描き出していく。

当初アーネルの加入には賛否両論あったが、ツアーを重ねていくうちに実力が上がっていき、ファンどころかメンバーの度肝を抜いていく。ステージ上で演奏しながらなんども「WAO!(あいつすげえぜ)」と驚きの表情を見せるカットが差し込まれるが、この嬉しい誤算がジャーニーの人気再燃を加速させていく。圧倒的な存在感だったボーカリストの後任という扱いだったはずなのだが、もはやファンはアーネル見たさにライブに足しげく通う。

中盤、ファンのひとりがアーネルとショーンに話しかけるシーンがある。

「アーネル、ジャー二に入ってくれてありがとう。ショーン、アーネルを見つけてくれてありがとう」

その最大級の賛辞を裏付けるかのように新規のファンをも取り込みアーネル加入後のアルバムは大ヒット。バンドは奇跡の復活を遂げるのであった。

――――ハッキリいうとぼくはジャーニーというバンドにたいしてこれっぽっちも興味がなく*1、その音楽性については何も書けないのだが、そういうこととは関係なく、この映画は転がりつづけることを信じたバンドと歌いつづけることを信じた歌手の運命についての物語であり、このふたつの運命が結びついたとき、予想を遥かに超えた奇跡が巻き起こる。これは実話版『スラムドッグ$ミリオネア』である。大傑作だ。

*1:好きといえる音楽ではない