ロドリゲスを探して『シュガーマン 奇跡に愛された男』

シュガーマン 奇跡に愛された男』鑑賞。新潟ではセカンド上映。

ホントにたまたまなので、マクラには丁度いいと軽く書かせてもらうが、ツタヤの発掘良品で見つけた『殺しの分け前/ポイント・ブランク』を借りてきてついこないだ観た。細かい感想は今度公開するとして、その原色飛び交う色彩感覚やハチャメチャな編集など、あきらかに鈴木清順はこの映画の影響を受けてるだろうなぁと素直に思った。

ところが公開年でいうと清順の『東京流れ者』は『ポイント・ブランク』の一年前であるということがわかった。今のように情報の伝達が早いわけではないから、偶然似たような映画が海の向こうで作られていただけということになる。

それこそヴェンダースが『都会のアリス』を撮影しているときに『ペーパームーン』が公開され、自分が今からつくろうとしている映画と内容がまったく同じだったことに絶望したというのはわりと有名なエピソードだと思うが、このように同時多発的に似た映画が世界各地で公開されるというのは珍しいことではないのかもしれない*1

シュガーマン』もそういうタイミングで公開されてしまった作品である。この作品が日本で公開された3月16日にもう一本、似たような音楽ドキュメンタリーが公開された。

ジャーニー奇跡の復活を描いた『ジャーニー ドント・ストップ・ビリーヴィン』がそれである。

ここから『シュガーマン』と『ドント・ストップ・ビリーヴィン』の概要について書きます。何も情報を入れずに観たほうがいいと言われているので、未見の人はご注意ください。

南アフリカではエルヴィス以上の人気を誇り、売り上げは「アビイロード」に匹敵する歌手ロドリゲス。しかし、本国アメリカでは商業的に大失敗。二枚のアルバムを出して消息不明になる……そう、彼は南アフリカ「だけ」で人気のあるシンガーソングライターなのである。その伝説的な存在にステージ上で拳銃自殺をしたというロバート・ジョンソン真っ青のエピソードまで残るしまつだが、どこの国だろうが正規のアルバムが100万枚近く売れてる以上、印税が本人の元にとどいているはずだと、彼の音楽を聴き続けレイナーノーツまで手がけたレコード店主と音楽ジャーナリストがその行方を追う………というのがあらすじ。

ストーリー自体はクドカンの『少年メリケンサック』よりも映画っぽい実話であり、これがここ数年の話であればyoutubeなんかを使って呼びかけたりするのかもしれないが『シュガーマン』は98年とそれが起きた時代も絶妙であり、より探すのが困難で、それが余計に感動を生む展開になっているのが特徴。

ただ、それとは別にこの二作はとにかくよく似ている。一度デビューするも挫折しているというところや、わりと裕福な生活をしていないというデビューまでの経緯。そして映画の軸である眠っていた才能があるタイミングと出会いによって表に出てきて、それが人々を魅了するという部分までそっくりで、さらにデビューしてからも地元でひっそり暮らしており、とてもスーパースターには見えないなど共通点が多々ある。

同じ日に公開された音楽ドキュメンタリーということでどうしても比べてしまうのだが、映画としてゴージャスだったのは『ドント・ストップ・ビリーヴィン』の方だったと言わざるをえない。膨大な映像の数から言っても違いは当然ながら、なによりも一番のキモであろうロドリゲスが数十年の時を経て南アフリカでライブをするシーンの映像の酷さったらない。その後も数年アフリカでライブをしているようなので、でっち上げでもいいから映画用にクルーを同行させ、本編に出てくるデジタル映像のようなクオリティで撮るべきではなかったのではないかと思う。

しかし、これは善し悪しであり、あの時の伝説がそのままむき出しになってるという捉え方もあるので、ここは個人的な嗜好があるとしても、いちばんの問題点はロドリゲスが生きていた!ということにこだわりすぎてる点である。

そこにビックリしすぎたのか、本編では死ぬほど質問を用意したと言ってるわりに、そのすべてが明かされない。彼はなぜ二作を残して失踪したのか?彼のことを支持したプロデューサーたちは才能を信じてたわりになぜ失踪したことを知らなかったのか?いつ結婚したのか?奥さんはどうしたのか?契約問題はどうしたのか?など、今ひとつロドリゲスの人となりが分からなかった。

これは本人の意向なのかもしれないが、じゃあ、生ける伝説として描いているかと言われればそんなことはなく、やや生活の匂いが出過ぎているので、ドキュメンタリーとしてはそのへんがどっちつかずになっているのが気になった。その点『ドント・ストップ・ビリーヴィン』は人間くささや労働みたいなところをキッチリ描きつつ、ちゃんと「奇跡」になっているのは素晴らしかったと思う。

とはいえ、この映画に感動したのも事実。なんといってもいちばんの説得力はロドリゲス本人の歌である。これにつきるといってもいいだろう。音楽に説得力がなければこの映画は成功してない。上記の写真からもわかるように当時はボブ・ディランの二番煎じ感が強すぎたかもしれないが、今聞くととてもポップだし、耳障りもよく、かなり聞きやすい。何よりも古さを感じない。観たあとにサントラを買ってしまったという感想をちらほら見かけたが、それはその音楽の良さを表す証拠であるといえる。

というわけで、奇しくも変なタイミングで公開されたせいで、個人的な不満もあったが、それを差し引いても大変素晴らしい映画なので是非観にいっていただきたい。新潟は二週間限定での上映。

Searching for Sugar Man (Original Soundtrack)

Searching for Sugar Man (Original Soundtrack)

*1:最近でも片腕マシンガールと片足マシンガール。ちょっと前だと地球に隕石がドーン系のヤツとか