越えられない壁『私の奴隷になりなさい』
『私の奴隷になりなさい』をレンタルDVDで鑑賞。ぼくたちのミューズ、壇蜜の映画初主演作。
彼女のことをはじめて観たのは今はなきBSの番組「ギルガメッシュLIGHT」だが、このときからエロにたいして積極的であり、首輪をつけたり、手錠をかけたり、バイセクシャル的な匂いをかもしだすなど、すでに特異なキャラクターとして注目をあつめていた。
レギュラー出演していたライムスター宇多丸との三者面談のコーナーで「石井隆の映画に出るべきですよ」とアドバイスを受けていたが、それは半分冗談みたいなところもあって、まさか彼女がこのあと「日本一美しい30歳」として大ブレイクを果たし、石井隆の映画にホントに出演することになるとは思ってもいなかった。
『私の奴隷になりなさい』は少しばかり檀蜜という名前が世間に浸透しはじめたかな?というくらいに公開された映画である。
レンタルビデオ屋でもつねに貸出中の人気作なので概要はすっとばすが、映像はオレンジや紫を多用し、まるで全体がネオンのような輝きを放つ。杉本彩がチラっと写ったと思えば、檀蜜は剃毛したり、バスに乗りながらオトナのおもちゃをつっこまれたり、女子高生のかっこうをさせられたり、最終的には亀甲縛りでカラダに鞭打たれる(映像には出てこないが)など、上記のパブリックイメージそのままに『花と蛇』のようなことをさせられる。まさにブレイク前夜、見事なタイミングでの起用であり、石井隆映画出演の前フリというと失礼にあたるが、開花しきった檀蜜のキャラクターと映画の内容がバッチリ噛み合った好例だといえよう。もはや彼女なしではこの映画は考えられない。
さて、この作品。映像や内容など石井隆のタッチに著しく近いが、おそらく下敷きにしたのはデイヴィッド・リンチの『ブルーベルベット』ではないかと思われる。
物語の語り部となるのは出版社につとめることになったイケメン。彼はどんな女でもオトせるという自信があり、彼女がいながらも先輩の女に手をだすような最低野郎――――設定こそ違えど、彼は『ブルーベルベット』の主役であるジェフリーなのだ。
彼は檀蜜というドロシーに惹かれていく。「しっかり顔をカメラで撮って」と妙な指示をされながらも体を重ねることに成功。そのあともことあるごとに呼び出されたりするが、あるとき、イケメンくんは彼女の家で彼女の秘密を見てしまう。この映画ではパソコンの映像ということになっているが、その内容はデニス・ホッパーがドロシーを殴りながら「ママーママー、ぼくねーママとお○○こちたいのー、フガフガー」と言うくだりと似たようなものである。もちろんこれほどの過激さはないが。
じゃっかん引きながらも、彼はその世界に魅せられていく。そして最終的にドロシーのことを救いたいと思うようになるが……しかし、その結末は……というのがこの映画のあらすじだ。
この作品は原作ありきの檀蜜主演作で企画がすすめられたモノかもしれないが、もし主人公を監督におきかえたら、どうだろう?彼のプライドをズタズタにする板尾創路(デニス・ホッパーの役回り)はそれこそ『ブルーベルベット』という映画そのものではないか?いくら檀蜜をつかって過激な映像を撮ったにしても、オレにはあの変態性を映像から出すことはできない。そしてあの大傑作は越えられない――――むしろ到達すらできない……そんな表現者としての苦悩があらわれているような気がする。実際、板尾創路は映画のなかでイケメンくんに「君はフランシス・ベーコンの絵をもっと見た方がいい」といわれるが、フランシス・ベーコンは『ブルーベルベット』のビジュアルに多大な影響を与えた画家なのだ。
『私の奴隷になりなさい』はエロい表現に目を奪われがちだが、そういう観点でみると非常に哀しいお話だといえる。
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