「リターナー」を再評価せよ!『安堂ロイド』第一話

安堂ロイド』の第一話を観た。

その人を喰ったようなタイトル。さらに演技がいつも一緒と評判のキムタク主演でSFをやるということで、放送される前から散々叩かれていたが、正直かなり楽しんで観た。

まず木村拓哉が「いつものキムタク」じゃないのがとても良い。

どの程度制作に関わってるのかはうかがい知れないが、主人公のキャラクターが「コンセプト・設定協力」としてクレジットされている庵野秀明にそっくりである。いや、正確にいうならば庵野秀明をモデルにした安野モヨコの『監督不行届』に出てくるカントクくんということになるのだろうが、あの天化のキムタクが他人とコミニュケーションをはかれない偏屈なオタクを堂々と演じており、さらにウルトラマンのポーズまで決めるしまつで、後に出てくることになるアンドロイドとの差別化をはかるためかもしれないが、その時点で「いつものキムタク作品ではない」と所信表明をする。

いろんな人が指摘してるようにストーリーというか概要はどっかで観たことあるようなものばかりで新鮮味はゼロ。あげく冒頭は『ガリレオ』っぽいなど、その辺は節操なくいろんなところから引用しまくる。基本は『ターミネーター』なのだが、植田博樹プロデューサーが制作した『ケイゾク』『QUIZ』『SPEC』『ATARU』系の伏線はりまくり脚本で、第一話から謎が残りまくりの展開がおもしろく、今挙げた作品が好きな人にはおすすめである。もちろんスタジオカラーのメンバーがコンテをきったというアクションシーンも特撮も見せ方がうまく、かなり好感をもった。

製作の段階で柴咲コウは「この時代にこういう作品をやろうという挑戦的な部分に惹かれました」とコメントしているが、実は『安堂ロイド』からさかのぼること11年前。同じようなコンセプトの作品が公開された。

山崎貴監督の『リターナー』がそれである。

監督はもちろんのこと、企画の立ち上がりから脚本家も違う作品だが、二作ともROBOTが製作にかかわっているということで、この手の作品をつくるにあたり、『リターナー』を意識していたことは想像に難くない。

リターナー』は元々『バディ』というタイトルで製作されていた。山崎監督のデビュー作『ジュブナイル』にあやかり、ひとつひとつのジャンルを山崎監督なりに作り直すというコンセプトの元、ジュブナイルものをやったあとはバディムービーでいいだろうということから製作開始。脚本は幾度となく書き直され、結局タイトルは最終的に『リターナー』に落ち着いたが、日本という土壌にあったちょうどいいサイズのSFを作りたいという監督の想いは見事にこの作品で結実する。

今となっては映画ファンの間でも「あー、あったなーそんな映画」という感じだろうが、この作品。『安堂ロイド』を観たあとに改めて観たのだけれど、11年前の作品とは思えない。むしろ11年経ってテレビのフォーマットで『リターナー』ができるようになったのかと感慨深くなったほどで、当時から技術はあまり進展してないこともうかがわせるくらいクオリティが高い。同じように絵コンテをしっかりきってからのアクションシーンは決め絵が連発され、金城武のキャラ造形もあいまっていちいちかっこよく、ソニックムーバーという未来のアイテムで空間が歪むシーンは当時も革新的だと思ったが*1、今でも見劣りすることはない。ストーリーはスカイネットが宇宙人に、未来を変えるためにやってくるのがマイケル・ビーンから鈴木杏に変わっただけの『ターミネーター』ともいえるが、恥ずかしげもなく、そこに『E.T.』と『マトリックス』と『M:I-2』をぶちこむあたり、監督の「オレはこういう作品が好きでこういうのを一回作りたかったんだよ!」という想いが素直に伝わる。燃えるセリフ回しも連発され、この作品を観た大友克洋鈴木杏を『スチームボーイ』の主演の声に抜擢するなど、彼女の魅力も最大限引き出されてるように思う*2。最近ではなにやら感動作路線にひた走ってる山崎監督だが、彼はゼロ戦の映画や三丁目のなにがしではなく、北村龍平のようなこういう無邪気な映画ばかり作っていればいいのだと改めて思い直した。

ということで『安堂ロイド』がおもしろかった人は是非この『リターナー』も観ることをおすすめしたい。そしてこの『リターナー』という作品がいかに偉大だったかと再認識していただきたい……というのはおおげさにしても、当時はわりかし低評価だった気がするので、あらためて早すぎた和製SFとして再評価されることを願うばかりである。

リターナー ― デラックス・エディション [DVD]

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*1:マトリックスぽいとはいえ

*2:アルデンテ食べたいは名シーンである