人を殺して夢を買え!『ドリーム・ホーム』

ドリーム・ホーム』をレンタルDVDにて鑑賞。

不動産価格が高騰し続け、マイホームを持つことが夢のまた夢になってしまった2007年香港。香港では殺人事件が起こったマンションの部屋とその隣の部屋が極端に値下がりするため、高級マンションで殺人事件が起こるたびに「これは不動産価格を下げるために殺人を犯してるのではないか?」という妄想をするようになったパン・ホーチョン監督。子どもの頃からスプラッター映画に魅せられた監督が、その香港の住宅事情を元に脚本化、そして、同じくスプラッターホラーを愛してやまない女優ジェシー・ホーが観客の度肝をぬくようなスプラッター映画を作りたい!という想いから、この映画のプロデュースと主演を買って出た!そんな二人が、がっぷり四つに組んで製作したのが『ドリーム・ホーム』である。

暗殺の森』よろしく、高級マンションの住人を片っ端から殺してまわる主人公の「現在」と、なぜ主人公が殺人を犯してしまうようになったか?の経緯を描く「過去」を交互に見せるという構成が特徴。それ故にハードゴア・スリラーという、一般的に敬遠されがちなジャンルを超え、一人の女性のドラマと、香港の政治経済の問題点を深くえぐる社会派な作品に昇華することに成功。作品を観た園子温監督が「ポエジーな見せ方」と評していたが、その「過去」の回想シーンは丹念に細かく描かれており、これ一本だけでも成立するんじゃないかというくらいよく出来ている。

が、その「過去」パートを打ち消してしまうくらいの「現在」パート――――殺人をしまくるスプラッター描写はかなり気合いが入っており、映画芸術の極みと言ってもいいくらいの大盤振る舞い。規制や観客の意見を無視して、とりあえず過去最高の殺人描写をやってみようというプロデューサーと監督の想いが激しく暴走し、今までに観たことないようなエクストリームな展開を見せまくる。詳しく書くとその魅力が半減されるのでやめるが、まぁその見せ方から表現の仕方から斬新で、細かなカット割に逃げず、人が変な殺され方をして死んでいくというのを長回しで執拗に撮るなど、とにかく容赦ない。人が死ぬというのはこういうことだ!目を背けるな!という監督のメッセージが伝わるくらいの丹念な描写が全編にわたって表現される圧巻の96分。むしろこの作品の魅力はそこにつきると言ってもいいだろう。去年でいえば『ピラニア3D』と並ぶくらいの残虐描写のオンパレード。そのおかげか映画はR-18を勝ち取ることになった。

何よりもこの作品がフレッシュなのは殺人鬼が屈強な男でもモンスター的なものでもなく、非力な一般女性であるという点だ(しかも超美人)。

故に殺人のシーンでは一筋縄ではいかず、殺す側が殺されてしまうかもしれないという視点が加わり、とにかくスリリング。この設定により、『暗殺の森』的な構成が裏目に出て、その緊張感をいちじるしく奪ってしまっているのが惜しいが、それは個人的な趣味嗜好の問題なので、その構成がアリかナシかは観た人に判断していただきたい*1

返還を境に、香港映画はいっときのパワーを見せなくなっていたが*2、その全盛期のパワーが戻って来た!と言いたくなるような快作である『ドリーム・ホーム』は、スプラッター映画に飢えてる者のみならず、わりと一般層にもおすすめ出来る*3。いやぁ、韓国映画しかり、アジア映画のバイオレンスはとにかくすごい。日本も頑張れ!園子温石井隆三池崇史以外に出て来ないのか!もっと血を!もっと人体破壊描写を見せてくれ!がるるる!

ドリーム・ホーム [DVD]

ドリーム・ホーム [DVD]

*1:実際この構成のおかげで物語に深みが出てるのは事実

*2:実際、年間300本製作されていた映画が、今では50本ほどになっている

*3:しかし18歳未満禁止のハードな殺人描写はあり