あなたはクレーンゲームでなにをつかみますか?

先週金曜の夜にNHKで放送されたドキュメンタリー「ドキュメント72時間/何をつかむ?巨大ゲームセンター」がすごくおもしろかった。

ついこないだジョニー・トーの『奪命金』を観たのだけれど、世界的な金融危機に直面した人たちが右往左往するという群像劇で、詳しい感想は後に書くが、いろんな職種/立場の人間が集まり、それぞれの思惑がすれちがい、そしてそれぞれに人生があるというジョニー・トーらしからぬ作品だった。もちろん世界金融危機だからこその話だと思っていたのだが、奇しくもこのドキュメンタリー番組にこの映画と同じ感想をもった。

ぼく自身。クレーンゲームはまったくやらず、むしろその魅力がなんなのかすら理解できてないが、どこのゲーセンにもかならずあり、広いスペースを陣取っている。番組ではゲーセンの売り上げの4割にあたると放送していたが、そのクレーンゲームにハマる人たちを取材しただけのシンプルな構成。

しかし、そこには「奪命金」と同じく、想像をこえる様々な人生模様があった。

まず最初に登場するのは今時の十代の若者。派手な髪型に長いネイル、濃いめの化粧をしている、いわゆる「ギャル」と呼ばれる女の子。「どんどんお金が吸収されちゃうよー」と3000円以上もつぎ込み、ひとつのぬいぐるみをゲットした。ひとりは19歳の専門学生だが、もうひとりはフリーターでなんと15歳。

その恰好や遊んでる場所だけで「なんて素行の悪い娘なんだ!」と失礼ながら思ってしまうのだが、その15歳の子に「地元はどこ?」と聞くと「福島」とかえってきて、しれーっと震災のときのことを話しだした。

想像を絶する揺れ、崩れる家の壁、頭から血を流している人が普通に歩いているなどの光景を見た彼女はそれがトラウマとなり、そこから逃げたいというのが多少あって、上京したのだという。

今はファッションの勉強をしながらアルバイトをし、黒ギャルを復活させるという啓蒙活動をしている。

序盤からこの調子で、放送時間は25分と短いが、他にもかなり濃いメンツが集まり、ひとつのオムニバスドラマを見ているようだった。

不思議なのはこれがパチンコ屋でも競馬場でも宝くじに並ぶ人でもなく、ゲーセン、しかもクレーンゲームのコーナーにいる人ということだ。

なぜ人はこんなにもクレーンゲームに魅了されるのか?ということについてはいっさい触れてないのだが、クレーンで何かをつかむという行為が、それぞれの人生に求めているものと直結しているようなそんな演出がなされていた。それは安心だったり、夢だったり、つかの間の幸せだったり、むしろつかむ物を探してたり……

番組後半。ゲーセンに働いてる人側の目線が出てきて、様々な想いが交錯するゲーセンで働いている人にもやはり濃い人生があるという構成になるが、それもニクい。

というわけで、思わぬ拾い物だったわけだが、聞けばこのドキュメント72時間。前に地下アイドルの特集をやっており、それを録画していたことを思い出した。あまり「ドキュメント72時間」シリーズとして銘打ってないのも不思議だが、これからもできるかぎりチェックしようと思う。しかし最近のNHKの番組おもしろいなー。ハズレないなー。若い人に編制や企画など丸投げするようになったか?