『カクテル』に見る「製品」としての80年代アメリカ映画。

こないだBSで放送していた『カクテル』を観た。

『カクテル』に関しては昔々に観ている。当時、マチャアキが隠し芸でカクテルをアクロバティックに作るというものをやっており、それに強烈に惹かれて、親に頼んでビデオを借りて来てもらったのだ。んで、映画に対する記憶はというと、酒をアクロバティックに作るシーンはほとんどなくて、それ目当てで見始めたからつまんねーと思ったということしか覚えていない。いかんせん子供でしたし。

少し前に自宅でカクテルを作るという行為にハマっていたこともあり、このタイミングでBSで放送されていたので、ちょうどいいやと録画して観たのであった。

ストーリーはまぁよくある「青春と挫折」の物語で最終的に主人公は真実の愛をつかむというもの。

劇中でも「オビ・ワン」という言葉を出してるようにこの作品はフォースが酒に変わった『スターウォーズ』である。トム・クルーズの師匠にあたる男はトムに酒で稼ぐにはどうしたらいいかだけでなく、人生観や女の口説き方、そしてキモであるカクテルのパフォーマンスまで徹底的に叩き込む。その師弟関係の姿はオビ・ワンとルークを彷彿とさせる。

そして『スターウォーズ』同様に師匠との別れや挫折などものすごい速度で濃密な人生経験をし、トムは真実の愛に目覚め、めでたしめでたしとなる。前半はおもしろく観たが後半はホントにどうでもよかった。『エピソード2』のアナキンのように自信過剰で若さに溢れた生意気な男が暴走するという意味ではおもしろかったが。いくらなんでも周りに迷惑かけすぎだし、ものすごい人数を傷つけている。もちろんそれが人生であり、人間であるのかもしれないが、この映画のトムにはこれ!といった挫折もそこまでないので、本人にその仕打ちが返って来てないじゃないか!と、どうも独りよがりな都合のいい、かっこつけドラマにしか感じないのだ。

全体的に映画は虚構な装飾にまみれており、ファッションに金はかかってるが着飾っている人物がすっからかんの脳無し野郎と言った具合。とにかく悪い意味でキラキラであり、イケイケである。劇中でも「客は金を運んで来る者と思え」「酒はたくさん注いでるように見せかけろ」「パフォーマンスでごまかせ」と言っているが、まさにこの言葉がそのまんまこの映画に当てはまるようだった。

これを見るといかに『スカーフェイス』がその時代や映画製作に対する批評性/先見の明を持っていたかが分かる。

テケテケした電子音楽とキラキラした美術でゴテゴテに塗りたくり、一見80年代らしいイケイケの作品を装いながらも中身はドロドロの血まみれ破滅映画。学歴や経歴を持たない男が気合い一発で成り上がっていくという展開も似ているが、野望、出世、金を追い続け、突き詰めると人間は人間らしくなくなっていくのではないか?という部分が『カクテル』には一切ない。『スカーフェイス』は83年の作品だが、『カクテル』のヒットと同時期くらいに制作された『ウォール街』ではこれをビジネスの仕方と共に真っ向から批判している。

奇しくも『スカーフェイス』と『ウォール街』はオリバー・ストーンの作品である*1。個人的に好きで観ていたのだが、『カクテル』を観ることで、時代の波に乗った反骨精神を持った映画だったんだなということがよく分かった。

というわけで、製品としてのアメリカ映画のひとつという意味で観て良かったと思った。決しておすすめはしないが、日本にも今の風潮を茶化す感じで『スカーフェイス』のような反骨精神を持った映画が出てくれば良いなぁと願うばかりである。あういぇ。

捕足:実際『カクテル』はラズベリー賞を受賞しているので、ヒットこそしたものの評価は良くない。

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*1:前者は脚本