『モダン・タイムス』がまだマシに見える『ウォール・ストリート』
『ウォール・ストリート』鑑賞。なんで『ウォール街』の続編であることを隠すような形で公開したのだろうか。結構続編だということを知らない人多かったぞ。
資本主義の暴走から生まれる倫理観の欠如みたいなものに警鐘を鳴らした『ウォール街』は株の売買をスリリングに描き、プロットは監督自身が脚本を担当した『スカーフェイス』のようで、当時のオリバー・ストーンの持てる力をすべて出し切ったみたいな作品になっていた。マーティン&チャーリー・シーンの親子競演もさることながら、圧倒的な存在感を見せつけたマイケル・ダグラスのゴードン・ゲッコー役がとにかく素晴らしく、当時彼に憧れて、彼のスタイルを真似た証券マンがウォール街に溢れたとか、溢れてないとか。
わりかし一直線な作りだった『ウォール街』に比べると『ウォール・ストリート』は人間関係も複雑で、相関図もややこしい。さらにそこにサブプライムローンの影響で崩壊していく金融市場の背景も組み込まれていく。やられたらやり返す金融界の抗争劇だった前作の流れは一応汲んでいて、物語はシャイア・ラブーフ演じるジェイコブの師匠筋にあたる人物を自殺に追い込んだブレトンへの復讐が軸だが、ゲッコーもブレトンによって刑務所に送り込まれた過去があり、この三人の三つ巴の戦いにジェイコブと婚約しているゲッコーの娘が絡んで来るという感じ。
正直、まったくおもしろくなかった。物語の軸がブレてるのは言わずもがなだが、特に「復讐を誓うジェイコブ」の部分が明らかに破綻している。
ここからネタバレ!最後までネタバレあります!ごめんなさい!
ジェイコブは前作でチャーリー・シーンが使った方法と同じやり方で復讐相手のブレトンに一矢報いる。ところがそれがブレトンに評価され、彼の会社に来ないか?と誘われるのだ。腹の底では何考えてるのか分からないブレトンが、自分に恨みを持ってると知ったうえでジェイコブを勤めさせるところに駆け引きや寝首をかくような展開が待ってるのかと思いきや、中盤でこのパートはあっけなく終わりを迎える。
抽象的に書くが、この部分がまぁ明らかに不必要で、なんで不必要かというと、その後、このパートにまったく関係ないやり方でジェイコブは復讐を遂げるからで、それだったら最初からその手段を取ればいいじゃないか!と思ってしまうのだ。そのやり方は「不利益なネットでのニュースサイトを使う」というものだが、そのニュースサイトに関する情報は映画の中ではかなり少なく、あっちは描いてこっちは描かないというのが明確に出てしまっているのも残念である。
他にも「ゲッコーの娘には実は100億ドルの総資産が……」というくだりもいただけない。ジェイコブをダマしてその金をゲッコーが奪い、それがひとつのドンデン返しになってるんだけど、その前に断絶していた親子が仲直りしてしまっているので、いやいや、ダマさなくても娘に頼んでサインだけしてもらえばいいじゃないか!とか思ってしまうなど、どうもプロット上でいろいろな問題点が浮上してくるのだ。だいたいブレトンってキャラはなんなんだよ!オレはてっきりチャーリー・シーンがマイケル・ダグラスを刑務所にぶちこんだのかと思ってしまったぞ!
前作では「物質的な豊かさよりも金で買えないものを大事にしたほうがいい」ということを主題にそれをそのままセリフとして言うキャラクターが存在していたが、今作ではそのキャラすらいない。そのことからも分かるように映画は「もうアメリカは落ちるところまで落ちてしまって物作りという基本に立ち返れない、次の金融バブルを待つしかないんだ」というホントに悲観的なところに行きついていく。
その昔、機械によるオートメーションをチャップリンは痛烈に批判したが、一応人間らしい心を取り戻したゲッコーが、娘や孫のために出来ることが次のバブルを待つだけというのはなんとも皮肉な話である。それこそホントにアメリカはやばいことになってるのいうのを国民が自覚するにはいい作品なのかもしれない。まだオートメーションで物を作って売って、その機械のネジを人間が締めてるだけマシだったんじゃないのかなぁ。あういぇ。
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