誰にだって人を殺してでも守りたいものがある。

「人を殺したいと思った事は無い」とは言い切れない。実際にぼくは脳内で周りにいる人間を少なからず数回はぶち殺しているからだ。

ま、普段から、「ぶっ殺してやりたい」と方々で口にしている分、「はいはい、またはじまったねぇ」と周りのみんなには思われてるかもしれないが、それを想像する事でキレる事もないので、迷惑をかけない分、健全な事であると思っていただきたい。

ぼくはブチっと瞬時にキレる事はない。断言してもいい。そもそもキレる事の意味が分からない。ぼくはその場でキレるくらいならば、綿密に計画して、そいつをとことん惨殺する事を想像する。ぼくは鬱屈していて、常日頃から憎悪が頭の中を渦巻いている。多分、常日頃から怒りが渦巻いてるからキレる事もないんじゃないかと思う。

タクシードライバー』のトラヴィスや『IZO』じゃないけど、権力にどっぷり浸かった上から目線のジジイは片っ端から首を刎ねてやりたいし、尻軽女は後腐れなく犯してやりたいと思うし、ヤンキーは皆殺しにしてやりたいし、とにかくありとあらゆるものをぶっ壊して、ひっちゃかめっちゃかにしてやりたいとなんとなく思ったりしている。でも、やらない。痛いのイヤだし、逮捕されるのがイヤだから。

こういう人というのは世間では批判の的、対象になる。「キチガイ」的な言い方をされるだろう。そういう事を考えてるだけでも言語道断だ!という人も多い。ところが、世の中というのは良く出来ている。こういう人を対象にした映画やゲーム、音楽や小説がわんさか売ってたりするのも事実だ。

朝の爽やかなニュース番組で、暴力的なゲームに影響された若者が殺人事件を起こせば、ゲームのコントローラーを握った事もないようなコメンテーターが「こういうゲームが殺人に影響を与える」とか言うが、ある種、鬱屈した怒りに対する欲求を叶えてくれるのがこういうゲームであって、ぼくは悪影響になるとは到底思えない(影響されて殺人を犯すのは、たいがい十代のガキだったりもするしな)。そもそも猟奇的な殺人事件はTVゲームが出来る前からあるんだよ、ばーか。ぼくみたいな人にとって、こういうゲームはファンタジーである。それこそAVは見るけど、AVのようなセックスをしないのと同じ様な感じと言えば分かっていただけるだろうか。

批判されるのを承知でつらつらと書き進めるが、とにかくぼくは常日頃から「死にたい」とか「殺したい」とか思ってる人間で、以前、京都に行く友人に次会えるのはいつだろうとか言い合ってた時に「二年後には死んでるから」と宣言した事もあったが、あれはなまじっか嘘ではなかったりもする。だからと言って自ら命を絶つ勇気は持ち合わせてない。

と、長々と書いて来たが、これのどっかに共感してもらえれば『果てしなき渇き』は傑作になるんじゃないだろうか。

果てしなき渇き (宝島社文庫)

果てしなき渇き (宝島社文庫)

てなわけで深町秋生の『果てしなき渇き』を読んだ。500ページもあったが、血液が沸騰する様な興奮を味わいながら一気に読み終わった。古泉智浩の『ワイルドナイツ』や、戸梶圭太の作品群、梁石日の『血と骨』、馳星周の『不夜城』に連なる破壊的なパワーがある。「エルロイもどき」と批判された事もあったようだが、個人的には『タクシードライバー』に近いなぁと思った。娘をイノセントの象徴とするんだけど、実は、、、、というところも娼婦を守ろうとするトラヴィスと通じるところがある。

果てしなき渇き』を読んで思ったのは作者は、ありとあらゆる物事に怒り、憤りを感じ、この世の中をぶっ壊したいと常日頃から思ってるんじゃないだろうかという事だ。もうこれは文章力うんぬん関係なく伝わる部分だ。

果てしなき渇き』にはその衝動を散漫にする事なく、整理整頓されたスタイリッシュな文体の中にこれでもかギュウギュウに押し込んだ印象を感じた。読んでる側から「殺す!殺す!殺す!世の中のヤツら、絶対にぶっ殺してやる!」という感情が渦巻き、タブーを平然と犯してるような感覚を味わう事が出来た。それは『バトルロワイヤル』からは一切感じない強烈なものだった。主人公の睡眠不足によるイライラと覚せい剤によるテンションの高さが、さらにその力に拍車をかける。

元刑事の娘が部屋に覚せい剤を残したまま失踪してしまい、それを元刑事の伝手や経験などを利用して探すというのがストーリーの骨格だが、そこから暴力、レイプ、麻薬、殺人と破滅に向かって行く。主人公の過去はほとんど描かれず、娘もどういう人物かミステリアスでつかみ所がない。言い換えれば何かの象徴のように描かれており、そのせいで入り込む事が出来ない人も多いだろうが、暴力描写と狂気は他の作家を圧倒している。

数々の地獄絵図を体験してきた主人公は「おれには…理解出来ない」と一応、呟くのだが、その主人公にヤクザがこう返す、「誰にだって人を殺してでも護りたいものがある」と、この場面はゾクゾクきた。内面をえぐり取られたようで怖くなってしまった。誰だって殺してでも守りたいものがあるから、世の中から殺人事件が無くならないわけで、実際に主人公は理解出来なかったはずのタブーを次々に犯す事になってしまう。

あと、方々で後味が悪いと言われてるが、個人的にはそうは思わなかった。むしろ落ちるべきところにしっかりと落ちている。ラスト10ページで明かされる衝撃の結末。まったく想像出来なかったので、えー!と何度も読み返してしまった。

てなわけで、読む人を選んでしまう可能性もある『果てしなき渇き』だったが、参った。C・マッカーシーの『血と暴力の国』と併せておすすめ。あと、虐められる少年繋がりで、岸川真の力作『半ズボン戦争』も読んどけ!『ワイルド・ナイツ』も読め!ロボコップも見ろ!あういぇ。

半ズボン戦争

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ワイルド・ナイツ 1 (アクションコミックス)

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ワイルド・ナイツ 2 (アクションコミックス)

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