東野圭吾の“方程式”とは?『真夏の方程式』
テレビで放映していたので『真夏の方程式』鑑賞。
注・『真夏の方程式』どころか東野圭吾作品のいくつかをネタバレしてます。
明るみになってほしくない「過去」から起こる新たな殺人と、その経緯をしっかりと描くスケール感。真夏の田舎町が舞台。さらに主人公が物理学の教授ということもあいまって科学的な要素がトリックに絡んでくるなど、東野圭吾版『砂の器*1』といった具合で、映画もそれを意識したような画作りが見られる。
ドラマ版の延長線上だった『ストロベリーナイト』とは違い、『ガリレオ』の名前を出さずに『真夏の方程式』単品として製作しており、明らかに出来が悪いドラマ版のシーズン2を吹き飛ばす快作で「なんで今回に限って子供嫌いなくせに子供と交流を持つのか?」とか「お前殺人には興味ないんじゃないのか?」など、いろいろ言いたいところもなくはないが、ペットボトルロケットを作って○○を見せるところはホロっと来たし、鬼気迫るシーンも福山雅治「以外」の役者陣によって形成される。特に杏がそのなかでも飛び抜けて素晴らしく、クローズアップを多用する演出はそこまで好きではないが、それをさせてしまうほど魅力的で、この役は彼女以外考えられないと思わせてくれる。
個人的にある意味「おもしろい」と思ったのは、この事件の犯人だ。
注・ここから超絶ネタバレ。東野圭吾の作品をいくつか読んだ人用。
東野圭吾の著作に『レイクサイド』という小説があるが*2、実は大オチとなる部分が一緒で、『真夏の方程式』は『レイクサイド』の15年後に、犯人が湯川と出会ってしまったことでその真実が………というお話になっているのだ(もちろん細かい部分は違うがおおまかにはそういうことである)。これをプロトタイプとして、動機や思惑などのドラマ性をブラッシュアップしたのが『真夏の方程式』なのでは……と勘ぐってしまうくらい似ている。
とはいえ、ビートルズだってどの曲を書いてもビートルズなのであって、ひとつこれという「方程式」が出来たらそれをいろんな形に変えて発表するのが作家なのでそこにたいしての文句はない。
よくよく考えたら、東野圭吾の作品には「○○*3が殺人事件の加害者として絡む」というのが多い気がする。
もちろん『ガリレオ』のワンエピソードにもそんなようなのがあったし*4、同じく映像化された『ゲームの名は誘拐』も大学生という設定ながら、精神年齢として考えるとそうっちゃそうだし『容疑者Xの献身』も殺すのを手伝ったりしている。『流星の絆』もやはり○○のときに両親が殺されてそこから犯罪に手を染めるなど、どうもそういう何かの「方程式」に法って書かれてるような気がしてならないのだ。
ネタバレ終了。
ぼくは東野圭吾という作家があまり好きではなかった。
もちろん作品自体は「実におもしろい」し、毎回ハッとさせられるし、オチがスパーンと決まってないようなものでも圧倒的な読みやすさと軽妙な語り口でグイグイ読ませる。こないだ日テレの深夜番組「今夜くらべてみました」で「本を読まないヤツに限って置いてあるのが東野圭吾」とネタにされていたが、それほど彼が国民的な作家のひとりであるということに異論はない。
ただ、おもしろい本を書いていたとしても「どうもこの作家とは友達になれないだろうなぁ」というのを文章から感じてしまう。そういう意味での「好きになれない」である。
それを象徴したキャラクターが『ガリレオ』の湯川だと思うが、またこいつが容姿端麗で頭がよくてスポーツ万能。モテモテなのに「恋愛は非論理的な行動だから理解できない」と生意気抜かすいけすかない野郎で、もしかしたらこれ東野圭吾本人のイヤミな部分がフィードバックされてんじゃねぇか?と勘ぐってしまうほどだ(そういえば『ゲームの名は誘拐』もエリートで女には困らない男がゲームとして誘拐という犯罪をしてしまう話だった。映画化の時には藤木直人が主人公を演じている)。
しかもこの湯川教授。殺人を犯した人の動機には何の興味もないとかいっておきながら、自分の話を理解してくれる唯一無二の親友が人生をかけてやった殺人をあっさり白日の下にさらしたり、変態ガリレオというわりに屁理屈こきの常識人な一面があって、どうもそれが解せないというか、もっといえば「何を考えてるのかわからない」「圧倒的に人間味がない」といったありさまで、東野圭吾の作品自体にもそういったものを感じていた。極端にいってしまうと「東野圭吾とはどういう人間なのか」が作品から読み取れないのである。故にそこまで多くこの人の本は読んでいない。
ところがだ。今回の『真夏の方程式』を観て(原作は読んでいなかった)、やっぱりこの人にも「(普通の作家)らしい」ところがあるじゃないかと思い直した。しかも今作の湯川は子供にたいして優しく、情にあついキャラクターになっている。なんか冷たく突き放したようなクールな印象があったが、それを拭おうとしているのもかわいらしいじゃないか。そういった意味では生まれ変わったといっても過言ではない東野圭吾の集大成的作品として(ぼくのように映像化されたものを中心に時系列順に観ている人にとって)、東野圭吾ファンはおろか『ガリレオ』ファンは必見だといえる。
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