60分の間に何回裏切れるかの勝負『Seventh Code』

『Seventh Code』を鑑賞。

当初は前田敦子のPVを黒沢清が撮るという企画だったのだが、それが延期され、ロシアまで行って撮影したと思ったらあれよあれよという間に劇場作品として公開までされ、なんとローマ国際映画祭に出品され、最優秀監督賞と最優秀技術貢献賞を受賞するという快挙を成し遂げ、さらにそれを前田敦子のシングルの特典としてDVD化して発売し話題になった。

「黒沢さんにPVを撮ってもらうというのはホントにすごいこと」と何度もいう前田敦子と「驚きました。すごい女優だと思います。これからの日本を…いや、世界をリードしていく才能の一人」という黒沢清の相思相愛ぶりが見事に合致した作品であり、好きな人を追っかけてロシアまで来てしまった女の子の話ということで、スケールの大きな『四月物語』かと思いきや(PVから派生した作品としても共通点が)、まるで60年代ゴダール作品のごとくジャンルがコロコロ変わり、アイドルを主演にした青春映画のような出だしから、ミステリーになり、かと思ったら田舎のレストランを舞台にしたスローライフ系になり、ヒッチコックのような巻き込まれサスペンスになったら、今度は唐突に○○○映画になり(→ネタバレになるので下のほうに注釈として書いてあります)*1、最終的にニューシネマのような展開になって、前田敦子が主題歌である『セブンスコード』を歌って終わる。

60分の短編ながら、表情がわからないくらいのロングショット、長回し、廃墟、唐突な暴力といつもの様式的な美学は登場。特に後半はその黒沢清映画でも見られないようなクールさ、スタイリッシュさがあるものの、前田敦子の不思議な存在感とロシアという土地、さらに説明しすぎない内容も含め、いかようにも解釈できるラストと、どこで撮っても誰を使ってもなんやかんやで黒沢清の作家性がしとどに溢れ出ている一本。

ぶっちゃけ後半のある展開でもって、前半の行動に「?」が点灯するのだが、メイキングにて、しっかり裏設定があることを前田敦子に説明しており、監督の中では確固とした世界観が構築されているんだなというのがよくわかった。それでも変な映画であることにはかわりはないのだが………

とはいえ、最後の1/3くらいはまったく想像してない展開だったので、そう言った意味では楽しく観たし、変なところが多くてもやられた。やっぱり映画というのはネタバレしないほうがおもしろく観れるのである。ちょっと違うかもしれないが、個人的には現代版の『ドレミファ娘の血は騒ぐ』と評したいところ。今年一番の拾い物かもしれない。傑作。

*1:スパイ映画