黒沢清監督最新ホラー『リアル〜完全なる首長竜の日〜』

『リアル 完全なる首長竜の日』鑑賞。

Twitterで「もうすぐ黒沢清の新作がシネコンで公開されますなぁ」的なことをつぶいていたら「え?どういうことですか?」というリプライが数人から返ってきたので、この映画の監督が黒沢清であるということは意外と知られていないらしい。

それもそのはずでシネコンで展開されてる大きめのティーザーなんかを見ると、なぜか主演:佐藤健×綾瀬はるか!主題歌:Mr.Children!となっていて、黒沢清の文字は隅のほうに小さく書いてあるだけなのであった。予告編にしてもそうで、さすがにこれを見て黒沢清と結びつく人は皆無といってもいいだろう。『アフターアース』の監督がシャマランだということもひた隠しにされているが、それに近いような印象すら受ける。『回路』とか『叫』の監督が撮ったのか……とある層から敬遠されてしまうことへの懸念なのだろうか。うーん。不思議でならない。

しかしである。もし製作サイドが「ホラー映画として売り出したくない」という意志のもと、その名前を隠したのであれば、それは正解だったように思う。なぜなら、この『リアル』という凡百の中に埋もれてもおかしくないタイトル/内容の映画は、どっからどう観てもまぎれもない黒沢清監督の最新ホラー映画だったからである。

自殺未遂で意識不明になってしまった恋人(綾瀬はるか)を救うため、センシングという手法で恋人の意識のなかに入り込み、対話を繰り広げ、なんとか昏睡状態から復活させようというお話。しかし、ここからがすごい。なんとその彼女は大人気のホラー漫画家だったので、その頭の中は…………ぎ、ぎゃー!!!!というわけなのである。

この企画自体を黒沢清にもっていったプロデューサーもある意味ですごいが、恐らくこういった内容の映画/企画を黒沢清は切望していたのではないか?原作を渡された時点でおもしろいことは分かっていたが映像化するのは無理だろうと思ったと語っており、ほぼ黒沢清ワールドとして脚色されたようで、劇中「ここは私の意識の中なんだから、私の好きなようにやらせてもらう」みたいなセリフがあったが、それが象徴するように、見事なまでに彼のモチーフがいたるところに存在。中谷美紀キョンキョンオダギリジョー松重豊といった黒沢組経験者はもちろんのこと、終末的な風景、廃墟でひともんちゃく、船に仁王立ち、昼間っからあらわれる幽霊など、ファンなら出ました!はい!これ出ました!状態で楽しいひとときをすごせること必至だ。もっといえばタイトルにもある通り、首長竜もでるし、ゾンビもでてくる。

とはいえ、映画全体をつらぬく緊張感、終末感、孤独感はさすが黒沢清である。役者に何もさせないことで有名な演技指導も今回ばかりは少し熱が入ってたように思う。佐藤健はそれこそ『アカルイミライ』のオダギリジョーを彷彿とさせるアクションでもってやや暗めの世界観をリードし、常連組はそれを優しく支える。

海のなかにおっこちる描写がへんてこりんだったり、「ぼくは君を救うために悪戦苦闘していたんだ」とか、そんなこというかなぁというセリフなど、細かいところで気になる部分はあったものの、エンディングのミスチルも含め、非常に満足した。

というわけで原作がこのミステリーがすごい大賞を受賞した作品なので、あまりあらすじについてあーだーこーだ言えないが、とりあえず『回路』 『カリスマ』 『叫』あたりが好きな人は観ることをおすすめしたい。っていうか、シネコンで全国展開されるんだよ!黒沢清の新作が!これはお祭り以外の何者でもない!!