ファスター・プッシーキャット キル!キル!


完全に映画史からは無視されてる節があるラス・メイヤー。だが、この作品には純粋にお客さんを楽しませたいという視点と、オレの好きなものを詰め込むという事を見事なバランスで組み込んでいる。ソフトポルノという扱いだが、この作品にエロシーンはまったくなく、ただ、ただ暴力的である。ロードムービー、バイオレンス、ホラー、カーチェイス、サスペンスと83分の間に怒濤の展開。そして意味もなく巨乳な女を登場させ、終始ロックが流れるので、どちらかというと男の子向けの作品だ。様々な映画を見て来たが、ここまで予測不可能な作品は初めて、娯楽を詰め込んだ、低予算モノクロジェットコースタームービー、それが『ファスタープッシーキャット キル!キル!』である。

2000年にフランスで『ベーゼ・モア』という作品が公開された。女2人が欲望のままに殺戮とセックスを繰り返すという映画で、ポルノか?映画か?と言われ、本国では上映禁止になったいわくつきの作品。この『ベーゼ・モア』は完全に『ファスタープッシーキャット』のリメイクだ。『ファスタープッシーキャット』をもっと過激に残虐にエロくすると『ベーゼ・モア』になるんだろう。だが、映画的におもしろいのは絶対に『ファスタープッシーキャット』の方。観るものを惹き付けるリズムと予測出来ない展開で否が応でもラストまで引っ張られる。低予算で作られたのは一目瞭然だが(砂漠しか出て来ないし)暴力や欲望のまま生きるとどうなるか?というのもしっかり描いているので、かなり好感が持てる作品である。主役3人の巨乳ちゃんは『チャーリーズ・エンジェル』よりもインパクトがあり、役者選びにも抜群のセンスを見せるラス・メイヤー、彼がポルノ以上に評価を得たのはこの辺にもあるんだろう。モノクロの作品なので、サイケでカラフルな美術は堪能出来ないが、映画のおもしろさとしては十分過ぎるほどの魅力があるのだ。

そしてラス・メイヤーの作品は非常に音楽がかっこいい、クールだ。サントラ集を出してもいいくらい音楽のクオリティが高い、オリジナルスコアなのかどうかは分からないが、この作品の音楽もロックで全体のテーマにあっている。

ジョン・ウォーターズラス・メイヤーから多大な影響を受けているが、たしかにこの作品には『ピンク・フラミンゴ』を感じる事が出来る。また、直接的ではないが、ジョナサン・デミの『サムシング・ワイルド』もこの作品の影響は大だろう、そのタイトルやポルノという括りで見てる人は少ないだろうが、ラス・メイヤーこそカルト中のカルトだ、とにかくこの人の映画はなんでもアリだし、おもしろい。娯楽映画を語るなら、ラス・メイヤーは外せないだろう。『ワイルド・パーティー』共々必見である。