これ、もしかしたら今までの全部の映画の中でベスト1かもしれねー

ウエスタン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

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マカロニウエスタンの父・セルジオレオーネがアメリカに乗り込んで撮り上げた西部劇。娯楽性と芸術性が噛み合って生まれた映画の頂点の様な傑作で、公開当時は失敗作と言われたらしいが、なぜそんな事を言われたのか不思議でならないほど素晴しい映画だ。個人的には映画における表現のすべてが詰め込まれている様な気さえする。

冒頭、凄みを効かせた男が3人、駅の中に入ってくる。駅員を威圧し男たちは金を払う気など毛頭ないようだ。音楽は一切流れない。ドアを勢いよく締める音と同時にセルジオレオーネの名前が出てくる。ここは実にスタイリッシュ。木のきしむ音、風車の回る音、指を鳴らす音、鳥の鳴き声、風、水が垂れる音、すべての音を拡張しリズムをつけ音楽にしている。それをさらに目立たせるようにカメラはゆったりと駅を映し続けている。

この3人は何かを待っている。彼らの苛立ちをセリフも使わずに淡々とカメラは捉えている。非常にゆったりとしたテンポだが、何が起きるか分からないので、緊張感が続く。

1人は飛び回るハエを見る。もう1人は指の関節を鳴らし続ける。もう1人は上から垂れてくる水を見ている。それぞれの苛立ちをそれぞれの音とクローズアップ、美しいロングショットで延々捉え続ける。1人がハエを捕らえ、もう1人が帽子に溜まった水を飲み干すと汽車がやってくる。彼らは駅からホームに出る。

だが、汽車はそのまま荷物を降ろしただけで、再び走り出す。3人はそのまま帰ろうとするが、そこにハーモニカの音が響き渡る。汽車が画面から消えると、そこに立ってるのはチャールズブロンソン…3人とブロンソンは線路を挟んで対峙する。彼らはブロンソンを待っていたのだとここで分かるのだ。

これが、『ウエスタン』のオープニングである。なんとオープニングだけでほぼセリフもなく12分もあるのだが、ここで一気に観客を引き込む事に成功し、これを長いと感じるか感じないかで、この映画への評価は別れそうでもある。この緊張感あるオープニングを抜けると後は映画的興奮の塊。金がかかった芸術性の高い一枚絵と娯楽性豊かなストーリーが圧倒的な力で迫り、見る者を圧倒する。

映像美は素晴しい。すべてのカットに魂を感じる。大自然を映し出すだけでなく、美術や衣装が完璧で、西部時代を見事にスクリーンの中に再現。キューブリックは『バリーリンドン』で18世紀のヨーロッパを再現したが、もしかしたらこの作品の影響もあったのではないか?と思わせるくらい映像の完成度が高い。緩やかなカメラワークも相まって、画面構築は100点満点。ビスコンティが西部劇を撮るとこうなるんじゃないか?と思うくらいに品格がある。ここに西部劇という娯楽性のあるものを組み込めば、映画としての面白さは比類無い。娯楽と芸術を組み合わせた映画と言えば『ゴッドファーザー』が有名だが、私は『ゴッドファーザー』よりも映画として上だと思っている(これは多分、私だけ、というか、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』は『ゴッドファーザー』よりも企画が早かったんだぞ!)

主役を演じるチャールズブロンソンだが、恐ろしくかっこいい。単なるヒーローではないのも魅力。悪役を演じるヘンリーフォンダだが、凄みのある演技で何をしでかすか分からない怖さがある。そしてヒロインのクラウディアカルディナーレ、彼女のキレイさは言葉では表せないほど、男臭い映画だったレオーネ作品に華を添える。

アクション映画の迫力、芸術作品の品格、男臭さ、滅び行く西部への挽歌、ストーリーとは無関係のシーンでの緊迫感、的確な音楽と音に対する異常なまでのこだわり、セットのリアルさと衣装の完璧さ、『ウエスタン』の魅力は一言で表す事が出来ないくらい多面的で魅力もたっぷり。

悔しいのはこの作品、西部劇のオマージュがてんこ盛りらしいのだが、そこも分かればもっとおもしろい作品なんだと思う。タランティーノが生み出したサンプリングという技術をすでにこの時代にレオーネは完成させていたのだ。ジャンル映画における詩的で美しい世界の再構築。これは香港映画にも飛び火し、後にツイ・ハークが『ブレード/刀』でそれをやってのけ、タランティーノが同じように評価した。『マトリックス』もそう。この作品はここ近年のアクション映画を最も予言した作品でもあるのだ。

頭の先から終わりまで西部劇のおもしろさと映画のおもしろさを詰め込んだレオーネの傑作。思うに男は2種類なんだよ、『ウエスタン』を愛するヤツと『ウエスタン』がダメなヤツ。。。。。。決まった!