あのタランティーノも好きな『ブレード/刀』


久しぶりに『ブレード/刀』を鑑賞する。私はツイ・ハークの『ブレード/刀』という映画が熱狂的に好きである。映画の出来や生涯のベスト作となると『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地黎明』になるんだけど、『ブレード/刀』も同じくらい好きだったりするし、何度も観てたりする。


『ブレード/刀』は『片腕必殺剣』のリメイクで、オリジナルの方は長らく日本で公開されなかったらしいが、去年だったかにDVD化されて、やっと観る事が出来た。実はこの『ブレード/刀』という作品は、


リメイクがオリジナルを完全に越えてる作品である。


ストーリーや展開は似てるんだけども、あとはツイ・ハークの美意識が爆発してる作品になってる。『片腕必殺剣』は私的に、あまりグッと来なくて、それだったら、『新・片腕必殺剣』の方がよっぽど傑作だと思った。確かに血まみれドロドロで、嫉妬だとか、人間の嫌な部分も全面に押し出されていて、当時は大ヒットしたのだが、チャン・ツェー自身もスタイルを確立してないように感じる。これはリメイクから観た印象が強いのではない、実際チャン・ツェーは傑作も多いし。


『ブレード/刀』はメチャクチャ評価が低い作品だ。いろんなところのサイトやら、みんなのシネマレビューなんかでも不当に評価が低い。さらにその評価も全部的外れだってんだから困り者である。アクションだけしかないとか、ストーリーが分かりにくいとか、カメラがブレまくってわからないとか、


確かにその通りなんだけども(笑)そういう部分よりも魅力的な要素があるのが『ブレード/刀』なんだが…この『ブレード/刀』を公の場で正当に評価したのはあのタランティーノだ。


以下、タランティーノの発言を引用。

「この映画のなかには実に偉大なアクション映画の伝統が息づいている。これは僕の意見じゃない。まったくの事実なんだ。ツイ・ハークがこの映画のなかで見せようとしたことは、セルジオ・レオーネが西部劇のなかでしようとしたことと同じなんだ。ジャンルにおける美しく詩的な世界を再構築してみせたのさ。でも残念な事に香港の観客はもっとお手軽に満足させてくれるものしか求めていない。こんな芸術的要素の高いものにはついていけなかった。だから、この映画の香港での興行成績はさんざんなものだったんだ。ところで僕は『マトリックス』のキアヌ・リーブスはすごくクールだと思うけど、キアヌの顔をもうちょっと落として、テンションを上げれば、チウ・マンチェクといい勝負になると思うね」

これはホントに完全同意である。そう思って私も観ていただけに、そのように評価する人が居ない事に憤りを感じていた。『ブレード/刀』はリメイクはリメイクなんだけど、オリジナルにない要素もてんこ盛りだ。レオーネが『ウエスタン』タランティーノが『キル・ビル北野武が『座頭市』を撮ったように、ツイ・ハークも彼らと同じ様なスタイルでこの『ブレード/刀』を撮っている。タランティーノが言ってた通り、ジャンル映画における詩的で美しい世界の再構築。香港映画の中でも異様な美学と芸術性に彩られ、映像美としては一級品。ストーリーと関係なくアクションシーンを散りばめる事でスピード感を演出、復讐オペラとも言える作品の美しさは言葉では言い表せないほどで、ビスコンティの様な美しさと黒澤映画のようなきっちりとした荒々しさがある。馬も出て来るし。かなり血なまぐさいし、片腕ぶった切られるが、これは『子連れ狼』などを思い起こさせる世界観でもある。


新しいウォン・フェイ・フォンの役でも有名になったチウ・マンチェクのかっこよさ、超が付くほどインパクトが強く、むしろ主人公よりも魅力的な全身刺青の悪役を演じるション・シンシンの素晴しさ。どうやって撮ったんだ?と素直に思う究極のアナログアクションに、西部劇を彷彿とさせるクライマックスの決闘シーン、女は妖艶で宿場の造形は日本の制作者も見習ってもらいたいほどのリアリティ、すべてがかっこ良すぎる映画である。


実は『ブレード/刀』はDVDを持っておらず、ビデオでしか観てない。さらに国内版は音声もモノラル、その時点で買う気がまったくないわけなんだが、ワンチャイをdts&リマスター版で再発売するくらいなら、海外版の豪華仕様で作りなおしてほしいもんだ。まぁ、誰も買わないんだろうけどな!

ブレード/刀 [DVD]

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