ディパーテッド


香港映画界を変えた『インファナル・アフェア』にみんなビックリしなかっただろうか?警察にはマフィアのスパイ、マフィアには警察のスパイという映画にしか絶対出来ないアイデアを元に練りに練られた脚本と無骨な演出、さらに芸達者な役者を揃えた奇跡の傑作で、評論家にも観客にも両方支持されるという快挙を成し遂げた。香港映画嫌いの親父ですら、「これはホントにすっごい映画だな、2もあるんだって?見たい!」と言った作品である。

となると、ハリウッドも黙ってない訳で、この香港製の刑事ドラマは何故かブラッド・ピットがリメイク権を獲得し、スコセッシ監督でディカプリオとマット・デイモンでリメイクされる事となる(ブラピは出なくてよかったのか?)それが本作『ディパーテッド』だ。

まずタイトルだが『ディパーテッド』にした事で意味がある作品になった。そうこれは『インファナル・アフェア』のリメイクではなく、スコセッシ監督の新作『ディパーテッド』だからだ。もちろんオリジナルの脚本には沿って描かれているものの、基本的にスコセッシ監督のカラーが全面に押し出されている。会話シーンでのテンポ良いカット割り、クレーンでしっかりと全体を捉えるカメラワーク、これでもかと出てくる徹底したバイオレンス描写、ストーンズからピンクフロイドまで飛び出すDJセンス、ここ最近は元気がなかったスコセッシだが、オリジナルには勝てないと分かったうえでの演出は潔く。『グッド・フェローズ』が大好きな私にとってはたまらない作品に仕上がっている。

オリジナルが香港の様々な場所を舞台にしたスマートな刑事ドラマなら、こちらは決して都会ではない下町のような薄汚い場所で、犯罪組織が右往左往するような話なのだ。良い脚本があれば良い映画になると聞いた事があったが、演出家が変わり、その演出家が独特の個性を持っていたら作品はまったく新しい物に生まれ変わるんだと言う事がわかる。

だから、この作品はハッキリ言って異色作である。まず、セリフ回しだが、基本的にスコセッシの映画らしく“FUCK”の連発。もっと卑猥な言葉も連発されるが、本物の刑事ってホントにこうなのか?と思わせるほど連発する。この時点でまともにリメイクする気はない(笑)もっと言うと、オリジナルにあったヒリヒリするような駆け引きもほとんどない。練られたストーリー展開なのだが、基本的に深くは描き込まず、さらさらっと進んで行く。深くは描き込んでないと書いたが、その代わりそれ以外のシーンがとてつもなく印象的で、精神科医というアイテムも使い、刑事なのに人が死んで行くのを見て行く事しか出来ない苦悩などを盛り込んでいて、人間ドラマのようだった。そしてもう1つ全面に押し出してくるのは暴力。R-15を獲得したほどの暴力描写を散りばめ、スマートなはずの刑事ドラマに違和感を持たせる。

童顔のディカプリオとデイモンは両者ミスキャストのような気もするが、演技がすこぶる魅力的で、特にディカプリオは熱演していたようにも思える。ジャック・ニコルソンは完全にやりすぎているがスコセッシ作品にはかかせないイカレてる男を体現していた。オリジナルには出て来ないマーク・ウォールバーグもセリフの60%がFUCK(私の勝手なイメージ)という役で登場する。

もちろんこの作品。完成度という点では低い。完成された脚本をいかにアメリカ的にしていくかという点が重要視されていて、そこからリメイクとしての変化球と味を出さなければならないために、やはり完成されているとは言い切れない。オリジナルは1時間40分だが、こちらは2時間30分で、50分も長い。だが、そのオリジナルにはない要素(これを書くとネタバレになるため、ここで割愛)が良く、テンポ良い演出のために2時間30分をまったく長く感じなかった。映像だけで語るシーンも含め、ここはスコセッシだからこそなせる技なのだとも思う。

さて、ここまで絶賛して来たが、この作品、そこまで傑作印を付けられない。付けられないが、私はこの作品が異常に好きだ。全シーンが未だに焼き付いているし、もう1回観たいと素直に思った。これはスコセッシが好きだからという部分が大きい。『ブラック・ダリア』もデパルマが好きじゃないと受け入れられない。つまりこの作品もスコセッシが好きかどうかで評価は変わると言う事だ。

ちなみに私は『インファナル・アフェア』は1回観れば十分だと思ったが、『ディパーテッド』はもう1回劇場で観たいと素直に思った。まぁつまりそう言う事。