ラルジャン

ラルジャン [DVD]

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帰ってhackerさんから借りた『ラルジャン』観賞。

すごい!なんだ!この映画は!こんなシンプルな映画があっただろうか!ミスチルじゃないけど、ホントに映画というものはこんなシンプルなもんだったんだ!久しく映画観て鳥肌立った。

ブレッソンは『スリ』しか見た事なくて、その時も実にシンプルでリアルな映画だなぁと感心したが、『ラルジャン』はさらに高みに登った映画だと言える。これ遺作らしい。だからこそ、こういう映画になったのかとも思う。ダルデンヌ兄弟の『息子のまなざし』に非常に似てる映画だった。だからダルデンヌ兄弟ブレッソンから、多大な影響を受けてると思う。

よく、リアリズムがどうのこうのって言ってるけど、『たそがれ清兵衛』なんてこれ観たら霞むよ。リアルな美術で飾ったって、所詮それは映画なんだよ、物語なんだよ、演出なんだよ。でも、この『ラルジャン』はそうじゃない。映画から離れようとしてる。演出というものから遠ざかろうとしてる。簡単に言うとブレッソン演出をしてないような演出をしてるのだ。

どういう事かと言うと、例えば、食事をするシーンを描くとしよう。席に着いて、いただきますと言って、喋りながら、食事をして、ごちそうさまでしたと言って、席を離れる。これは食事をするシーンの演出だ。

だが、ブレッソンは食事をするシーンを撮るとしたら、こうするだろう。人の前に料理が盛られた皿を置いて、次のカットでは皿に何も乗ってない絵を見せる。だが、観客には充分にこいつはこの料理を食べたなと分かる。これは演出から離れようとする行為だ。削ってるだけなのだから、だが、その2カットも実は立派な演出行為であり、ブレッソンの演出手腕なのだ。演出してるようで、演出してない。それの積み重ねが『ラルジャン』だ。

ある青年がニセ札を掴まされて、監獄へ行き、どんどん堕ちていく様を描いた作品だが。映画は84分という驚異的な短さである。これは上記の通り、無駄な物を全部省いた結果にすぎない。もし、『CASSHERN』の脚本をブレッソンに渡したら、50分くらいになりそうだ(笑)

よく「行動は描けてるけど、内面が描かれてない」というのがある。だが『ラルジャン』は内面はおろか、行動もほとんど描かれない。そこにあるのは結果だけだ。これがとてつもない深みを持たせている。人間ってほとんどしゃべらないし、感情が一切見えない。だからこそ、よく殺人事件とかおこっても『そういう事するように見えなかった、すごくいい人だった』とかコメントされる。『ラルジャン』もそう。人間の感情を一切描かない。だからこそ、怖いし、緊張感もある。何をしでかすか分からない怖さが全編を覆っている。

いやぁこれ観たら…『抵抗』が観たくなる〜!!!!あういぇ。