『カールじいさんの空飛ぶ家』とガキぃぃぃ!!!


もうすぐに終わってしまうが、すべりこみセーフで『カールじいさんの空飛ぶ家』を観た。しかも結構人が居て驚いた。年齢層も子供からお年寄りまで幅広かった。それにしても『カールじいさんの空飛ぶ家』とはいい邦題だ。なんつっても原題が『Up』めちゃシンプルだな!おい!

もう、観た人も多いと思うが、やはりここは信頼出来るピクサーブランドということで、素晴らしかった。構図や色彩まで凝りに凝った映像が美しいのはさることながら、説明をバンバン無視して映像だけで分からせようとする演出にものすごく長けていて、観客にシーンとシーンの間で何が起こったのかというのをちゃんと分からせながらもスピーディーに進んで行くのはホントにうまい。

特にそれが発揮されたのはカールじいさんの子供から現在までをサイレント映画のように演出した冒頭シーンだ。一番の泣きのポイントが前半に来たのはピクサー史上初なのではないだろうか。子供にも恵まれず、献身的に奥さんを愛したカールが独りぼっちになり、家に向かって「エリー」と奥さんの名前を呼ぶだけで泣けるし、ポストを壊された時の怒りも充分に伝わって来て、前半はパーフェクトだった。

そして、妻と共に死に場所に旅立って行くカールの清々しい顔と行ったら――――あれだけでこの映画を観てよかったと心の底から思ったわけだ。

ところが、ところがである。ここからはぼくの勝手な、ホントにホントに勝手な感想になるわけなので、ネタとして聞き飛ばしていただきたいのだが、カールじいさんは、空を飛んで行ったあと、あるキャラクターと出会う、それがラッセルというガキだ。ここからストーリーは予想もしていなかった方向へと進んで行き、まったく違う映画として、おもしろくなっていくわけなのだが、ぼくはあのガキに心底イライラさせられてしまって、まったく物語に集中出来なくなってしまったのであった。

しかも、さらに運の悪いことに今回は環境が悪かった。なんと、映画の中だけじゃなく、映画を観ていたガキも騒ぎ出しやがった!!カールじいさんが空に飛び立ってから、荒唐無稽になるにつれて、子供のテンションも上がったのだろうか、


「うわー!空飛んだよ!」


「家なんて持てるわけないじゃん!!」


「鳥かわいー!!」


あー!!うるせーんだよ!!ガキぃぃぃぃ!!!!


一応、親が「シー!静かにしてっ!!」って注意するものの、その声もうるせーんだよ!!!親ぁぁぁぁ!!!!


そんなこともあってか、とにかく子供にイライラした。ぼくはカールじいさんがあまりに魅力的で、カールじいさんの最期を応援していたので、あのガキがとにかく邪魔で仕方がなかった。さらにあのガキのせいで、トラブルが起こり過ぎなのである。これはメインプロットが「妻を亡くしたじいさんが死に場所に行こうとしたら、子供が付いて来てしまって、なかなか死ねなくて、最終的にその子供に生きる意味を見いだす」というモノだから仕方ないにしても、あのガキはホントに酷い。

だって、ガキが付いて来なかったら、あんなところに不時着することもなかったし、あのガキが居なければ、鳥になつかれることも、犬が付いて来ることもなく、あのガキが食事の席で余計なことを言わなければ、鳥がなついていたことはバレず、あのガキが風船で飛んで行かなければ、奥さんとの思い出の家具を捨てることもなく、あのガキがイスに縛り付けられたままだったら、家が離れずに余計なことをしなくてもよく、もっと言えば、あのガキがいなければ、じいさんは家を失うこともなかったのである。しかもあれだけのことしといて「家、残念だったね…」ってなんてヤツだ!!

昔、『いますぐ抱きしめたい』という映画を観た時も「なんだあのボンクラが余計なことしなければ主人公は死なずにすんだじゃないか!」とイライラしたが、あれはギャングが主人公で、しかも問題を起こすのが弟分だから納得するところもあった。ところが『カールじいさんの空飛ぶ家』は甥っ子や孫ならまだしも見知らぬガキなのだ、これはぼくが父親じゃないからかもしれないが、ラッセルがホントに理解出来ない!

そして今作で悪役に位置づけられてるカールじいさんが子供の頃から尊敬していた冒険家だが、あの冒険家は世間から嘘つき呼ばわりされ、それを見返してやろうと、努力していた男で、そのためなら殺人を犯すこともなんとも思ってない悪人なのだが、その冒険家がめちゃくちゃ魅力的に見えてしまって、主人公達がしたことが、ものすごく酷く思えてしまったことも、マイナスだった。○○のはともかく、飛行船を盗むってあんた!!

もちろん映画はホントに良く出来ていたと思う。子供に生きる意味を見いだすというのは、ピクサー作品であることを考えれば、仕方の無いことなのだが、映画の中のガキと観てるガキがもう…

てなわけで、ちょっと特殊な環境で観てしまったのも悪かったが、ぼくみたいな心の腐ったダメ人間には不向きな映画なので、普通の人ならば楽しめること必至な作品でありました。

ただ、書いてて思ったのだけれど、『サヨナライツカ』を観てた時にぼくもレゲエが出て来たら「ぶっ!」吹き出したし、「キミは濡れないし、ボクは勃たなくなった」というセリフが出た時も「がはは!」と笑ってたりしたので、泣きそうになってた人からは「ふざけんな!」とか思われてたのかもしれない……

――――みんな!子供は大切にね!映画館で騒いでもイライラしないで、微笑ましいくらいに思おう!!なので『ルーキーズ』とか観て爆笑してる人がいても、怒らないようにしよう!!あういぇ。