ぼくは『ゴールデンスランバー』を応援したい


ゴールデンスランバー』鑑賞。

同監督の『アヒルと鴨のコインロッカー』や『ジェネラル・ルージュの凱旋』、『ジャージの二人』はお気に入り作品で、さらに全部が原作モノということもあって、作風も内容もコロコロ変わるが、『ゴールデンスランバー』もまったく違うテイストで作られたドライヴ感みなぎる極上のエンターテインメントだった。

周りの伊坂幸太郎ファンにその魅力を訪ねると「伏線の張り方と回収がうまい」という答えがよく返ってくるが、確かに『ゴールデンスランバー』を観ると、その意味がよく分かる。冒頭から、さりげなく出て来る主人公たちのくせや言動、行動などが最後の最後まで伏線になっていて、それがパズルのピースのようにくっついていく快感みたいなものが作品の魅力の一端になっていることは間違いない。さらに今作は設定がいい。首相暗殺に間違えられた男の逃亡劇だが、主人公がちょっと特殊で「過去にアイドルを強盗から救った宅配ドライバー」という設定になっている。これが実にうまい。微妙に顔を指され、道にやたら詳しいというのが逃亡劇をスリリングに盛り上げるにはピッタリだ。しかもアイドルみたいな顔ではなく、堺雅人演じる人の良さそうな男前というのが絶妙で、確かにあれだけ顔から人の良さがにじみ出ていたら、会う人会う人が逃亡を手伝ってしまうのもちょっと分かるのである。

実生活では使わないようなかっちょいいセリフが全編にわたって登場し、一癖も二癖もあるユニークなキャラクターたちが、明らかに現実離れしているが、この一番の難問を今回はキャスティングによってクリアした。芸人からアイドル、ベテランから若手までバランス良く揃えた役者陣が全員素晴らしい仕事をしていて、歯の浮くようなセリフもちゃんと「おうおう!嘘くさくねぇじゃん」と思わせることには一応成功している。監督の演出もあるだろうが、もうしわけ程度に使われてる大物も含めて、ここまで映画の内容を尊重したキャスティングが近年あっただろうか。

それだけじゃない、今作には「この映画をすんげぇものにしてやろう」みたいな熱意がありとあらゆるシーンから伝わって来る。凱旋パレードのシーンから始まって、路地を駆け抜ける逃亡シーンや、映画の中に登場するニュース映像のリアリティ、一連のクライマックスなど、ハリウッドには敵わないが、それでも日本にしか出来ないエンターテインメントを作ってやるんだ!みたいな気合いが感じられた。

確かに現実に置き換えるとあり得ないことだらけだし、そんなバカなと思ったシーンも多々あったし、冷静に考えれば、かなり残酷で悲惨な話だなという印象も無くはないし、極悪人が出て来ないし、んで、結局どういう話なの?と言いたくもなったし、ハッキリ言うと場面にそぐわない音楽もあったりして、マイナスな部分もいくつかあったが、『ルーキーズ』だとか『GOEMON』のことを考えると、日本にあったスケールのエンターテインメントとして、ぼくは『ゴールデンスランバー』をとても応援したい。『アマルフィ』も別な意味で応援したくなる作品ではあったのだが……それとは違うよ!

てなわけで、『ゴールデンスランバー』ぼくはすごく好きです。好きな映画です。なんというしまりのない終わり方だろうか、でも好きとしか言いようがないんだなぁ。これから『アビイ・ロード』聞きます、あういぇ。

ジェネラル・ルージュの凱旋 [DVD]

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ジャージの二人 [DVD]

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