大怪獣グエムル漢江に現る!

使っているパーツは普通だったり、古かったりするんだけど、出来た物はまったく新しい怪獣映画。

ゴジラ』や『キングコング』など、怪獣映画は数あれど、その定型を破り、怪獣映画というジャンルをまったく新しく作りなおしてしまった作品が韓国から登場した。監督はポン・ジュノ、『殺人の追憶』で「黒澤明の孫が韓国にいた」と阪本順治に絶賛された監督である。

殺人の追憶』を観てもらえば分かる事なのだが、あのタッチで怪獣映画というと、それこそ、黒澤明がいきなり『ゴジラ』を監督してしまったくらいのインパクトがあり、観る前まではどういう映画なのか予想はつかなかったが、これがどうして、すさまじい快作に仕上がった。

グエムルというのはハングルで怪物の意味である。正体不明の怪物がソウルの中心に流れる河「漢江」に姿を表す。その怪物に家族をさらわれてしまった、ダメ一家が、自らの手で救出するというストーリーだ。

グエムル』は『宇宙戦争』や『トゥモロー・ワールド』のように、いきなり現れた怪物に、いきなり家族をさらわれる。その一家の目線で話が進んで行くので、説明的な要素が一切無く、ラストまでその家族しか映されない。一人称とまではいかないが、それぞれ一家の行動がカットバックで描かれ、それぞれの視点で話は進んで行くが、それと平行した世間の動きはまったく描かれない。ここで好き嫌いが別れそうだが、そのおかげで緊迫感があり、ハラハラする。

いきなり白昼堂々、グエルムは現れ、人々を襲い始める。グエルムの描写だが、異様に早く、異様にジャンプ力がある。CGでクリエイトされているために、軽いが、その軽さという弱点を、怪物を小さくする事で補っている。実際グエルムはゴジラ並みの大きさではなく、どちらかというと、キリンに毛が生えたくらいのデカさだ、この大きさが絶妙で、ゴジラだとでか過ぎて、踏んづければ終わってしまうが、グエルムは微妙に小さいために、体当たりをよけたり、しゃがんでかわしたりするスレスレの怖さがある。この襲撃シーンのカメラワークは見事で、横にカメラを動かし、そこにグエルムを合成。『ゴジラ』になると、上から下だったり、クローズアップだったり、固定カメラだったりするのだが、『グエルム』では横に流れる事でスピード感を演出、ここは『もののけ姫』にも似ているが、逃げ惑う人の動きに合わせてカメラが動くため、『ゴジラ』とはまた違う怖さがあり、ハラハラした。

『グエルム』のおもしろいところは家族の話なのに、家族が仲良くないという事、どちらかというと、一家はバラバラで怪物が出て来た事で一致団結するようなところがあり、それでも道中はひたすらお互いを罵り合う。頭のイカレたダメ親父、大卒フリーターの弟、客の商品をつまみ食いし、ビールばっかり飲んでいる兄、唯一マトモな妹もジャージをずっと着ているという頼りなさ(しかもジャージが似合い過ぎ!) 家族の成長物語かと思いきやまったくそんな事はなく、ラストも実にシンプル。それがリアルだし、監督も分かっているポイントである。その家族だが、全員がユニークな顔と演技で、全員印象深いというのも素晴しい。特に終始ジャージ姿のペ・ドゥナにはノックアウト。クライマックスの彼女に鳥肌が立った。

さて、『グエルム』だが、ストーリーについて何も言及出来ない。もちろんそれぞれいいシーンもあるし、それについてもいろんなテーマが隠されているので、全部に書きたい事はあるのだが、『グエルム』はこちらの予想をどんどん裏切っていく展開で、2時間、どうなっていくのか分からないという映画なのだ。家族愛、人間の成長、怪物、負け犬の反撃など、パーツは古いのに、見せ方がうまいため、予想していた物が全部覆された。なので、これから観る人はまったく予備知識を入れずに観る事をオススメしたい。

『グエルム』で○○○○が無いという設定にずっと「?」が点灯していたが、それもラスト数十秒で明らかになるというすごさ!なるほど、だからアメリカだったのね、ポン・ジュノうまいです!