映画というか、コントとしての『大日本人』

思いつきで『大日本人』を観にいく

おもしろかった!めちゃ笑った!

映画としては完全にぶっこわれていて、フェイクドキュメンタリーの体裁をとってるんだけど、カット割のリズムも手持ちカメラの揺らぎもレンズフレアもしてる映像からも分かるように、全体的にゴダールのそれのようで、そこに松本人志らしいディテールの積み重ねの笑いに包まれた至福の二時間だった。

確かにやってることは完全に今までの延長線上にあるものだから、そこに新鮮さとかはないし、映画というよりはホントに10億かけたコントだと思う。これは映画って呼んじゃだめでしょ?でも、その映画じゃない形が、松本人志が撮る『映画』になってるんですねぇ。

すごかったのが、映像だけで分からせる演出の数々ですね。これ実は日本の監督でしっかり出来てる人っていないんですよ。例えば大佐藤がどういう家系でどういう歴史を歩んで来たのかというのは、部屋に飾られた写真やニュース映像だけで分かるし、アドリブで構築したセリフ回しも気が効いてて、特に日本を守るヒーローと自覚してる彼が、増えるわかめに妙なシンパシーを感じてるとかおもしろい。松本人志という役者がいかに魅力的かというのもよくわかったし、あれ他の監督だとああいう演技にはならないというか、松本人志監督が松本人志という役者をよく分かってる使い方だったんじゃないでしょうか。

まぁ、真面目な映画でもあるんですよ。「日本人よ!もっとしっかりせんかい!」とか、伝統とか、離婚、家族、老人介護、はたまた軍事関係とか、日米のこととか、まずコントにしては、かなり盛り沢山なメッセージで、しかも受け取りやすいように提示している。説明的な演出は一切無いし、そこに映ってるものからすべてを受け取れ!という突き放したことがホントによかったですね。

松本人志の本で『松本裁判』っていうのがあって、そこにエディプスコンプレックスというのが松本人志のキーワードとして出て来たけど、それも重要なファクターになってて。まぁ、母親に対する愛情がどうのこうのというのはなかったんだけど、だから、松本人志個人としても、松本人志の作品としても集大成的な物になったんだと思う。

にしても、後半がやっぱりすごかった。『頭頭』とまったく同じ方法論なんだもん。

老人介護問題とかも、全部前フリでとにかく衝撃的な結末でしたよ。これは「謎にしていた」というよりも、説明出来ない映画だったということが本当に見れば分かる。この映画を松本人志の過去作になぞらえると『頭頭』と『トカゲのおっさん』と一人ごっつの『義父』を足して金をかけた感じ。

この間、別のエントリで内容について予想してみたけど、結構当たってたんじゃねぇか?でも、後半がすごいけど、『頭頭』みたいに笑いがないわけじゃない、ちゃんと前半にも笑いを散りばめている。インタビュアーのタメ口には映画館も沸いてた。まぁとにかく映画と呼べるかどうかは分からないが、しっかりした松本人志の新作コントを是非劇場で観ましょう。