銀色のシーズン
すごい!このアンバランスさ!これは『フロム・ダスク・ティル・ドーン』だろうか!はたまた『グラインドハウス』だろうか!ある意味で必見だ!
最初の1時間はとてもウエルメイドに作ってあって、めちゃくちゃ好感が持てる。冒頭、いきなりものすごい急斜面をスキーで滑り降りるシーンから始まるが、これはまさに、映画が持つダイナミズムと映画だからこそ出来るシーンだ。そもそも昔の日本映画というのは意味もなく、観客をグッと掴むシーンから映画が始まっていた。そんな風に『銀色のシーズン』は始まる。急斜面を滑ったかと思えば、ジャンプして、屋根の上を滑ったり、階段の手すりをすべったりする。そんなスキーのシーンが終わった後は、まぁ、普通のドラマになるのだが、撮り方も飽きさせないようにきちんと構図を決めてて、カメラも緩やかに動く。雪を撮るのは難しいとされている。されているが、それに果敢にチャレンジしたスタッフの努力は買うし、さらに、レンズフレアしたり、吹雪のシーンを出すなど、天候がコロコロ変わる感じも映像にしてて良い。『アヒルと鴨のコインロッカー』では抑えた演技を披露してた瑛太だが、『銀色のシーズン』ではまったく真逆の演技をしてて、それも違和感無く、魅力的である。
ところが!
ところがだ!
『銀色のシーズン』は後半1時間でプロットが崩壊する。注:ここからネタバレ
瑛太が住んでる町はスキーのモーグルをウリにした観光地。ところが、そこはスノーウエディングと言って、雪の教会を作って、そこで結婚式をあげるという名物がある。そこに田中麗奈扮するヒロインがやってくる。雪の結婚式のお客さん第一号だ。町のみんなはこれで親戚とか、何十人も来れば、旅館だの食堂だのにぎわって町は豊かになる!と大喜び。
瑛太はその町ではやっかい者となっている。瑛太は雪山の何でも屋を商売にしていて、北海道から来た男と大阪から来た男と3人で暮らしている、彼らはこれと言った職にもついていないので、好き放題町で暴れ回っている。そんなやっかい者と田中麗奈は出会う。田中麗奈の婚約者はスキー狂で、その婚約者と一緒に教会をスキーで滑り降りるのがイベントになっている。ところが田中麗奈はスキーはおろか、雪すら見た事ない!そんな彼女をカモだと思った瑛太は、彼女から日給2万円でスキーのコーチを請け負う。
田中麗奈は転んで、転んで、瑛太に罵声を浴びながらも必死でスキーを覚えようとする。初日の練習が終わって、宿に帰ると、宿に“スキー博物館”なるものがあって、そこで、瑛太がメダルをぶら下げて、外人と映ってる写真を見つける。田中麗奈は独りつぶやく「あなた何者…」
一通りの練習が終わり、宿で働いているサトエリとスキー博物館で偶然出会う田中麗奈。「あのー彼は何者なのですか?」サトエリは自分の部屋に招待し、そこであるビデオを見せるのだ。
そこに映っているのは、ゼッケンをつけて、コマネチをしてる瑛太だ。彼は日本を代表するモーグルの選手だった。彼は大事な大事なレースで、大技に挑戦し、失敗。全治10ヶ月、リハビリ2年という巨人の吉村みたいな選手生命を絶たれるような大ケガをおう。彼は町の期待を背負って、チャレンジした。それは町のみんなのせいだ。サトエリは言う。「ヤツが好き勝手しても、瑛太に何も言わないのは、彼を引退に追い込んだ負い目があるから」だと。
ここまでは至って普通のドラマ。むしろ良く出来てる方だ。ヘタなTVドラマを観るよりもずっとマシである。ところが、ここからの展開が凄まじい!
まず、田中麗奈がそんな話をしてる次の日の朝、瑛太の家にいきなりバズーカー砲のような物が届く。いや、それよりもすごい。バズーカーってのは肩にかけて、手に持つけど、瑛太の家に届くのは、人が乗って、なんか、狙いを定めて、すげぇ遠くまで届く。大砲のような物なのだ!兵器である。
んで、それをいきなり山に向けてぶっ放す!!!!一発目は外れて、ニ発目は見事山に命中!つまり、雪崩を人工的に起こして、その後を滑ろうという魂胆である。
雪山を滑って、町につくと、みんなが右往左往し始めてる!なんと、雪で作られた教会が破壊されてるのだ!その様子は描かれてなかったが、雪にも埋もれず、崩れ去った教会が映ってるところを見ると、瑛太の放った一撃が教会に直撃したものと思われる(あんな山中に建ててたのか!)1ヶ月先まで埋まっていた結婚式はみんなキャンセル。呆然とする町のみんな…そして、キャンセルの電話をかけたら、そこで衝撃の事実が、
なんと田中麗奈の婚約者は半年前に死んでいて、田中麗奈は彼の事が忘れられず、結婚式を1人であげようとしたわけだ!当然、招待客などいるはずもなく、さらに呆然とする町のみんな。田中麗奈は大金を残して、行方不明になってしまう。
すべてを知った瑛太だったが、悪びれる様子もなく、逮捕もされない!さらに雪山パトロール隊どころか、警察にまでケンカをふっかけ、いきなりの大乱闘。その乱闘騒ぎを抜け出し、田中麗奈を探しにでかけるが、あれだけの広い雪山でパトロール隊も発見出来なかった田中麗奈をあっさりはけーん!田中麗奈も、ものすごい軽装備で雪山登山をする(雪山登山をしたものならわかるが、ハッキリ言ってあの格好じゃ無理)田中麗奈は教会が壊された事に感謝し、死を望んでいて、雪山で死んでもいいやという気持ちになる。瑛太は死にたくないので、雪を掘る。天候が変わってしまったので、一晩ビバークする事になった2人(死にたくないのか)そこで田中麗奈をなぐさめようとする瑛太だが、逆に「あんただって、成功させて無いじゃない」と言われる。雪山から無事に帰って来た2人はいい雰囲気になって、チュウしようとするが、邪魔が入る。邪魔が入った事で我に帰った瑛太は一晩中叫びに叫び、風呂の中でも、シャワーを浴びても、全裸で叫ぶ。
んで、いきなり次の日に、自分が過去、失敗した大会に再び挑戦する。実は、瑛太の元には毎年招待状が来ているのだが、瑛太はそれを無視し続けていたのだ。田中麗奈は帰ろうと駅にいるが、強引に大会に来いと言われ、そこで無茶苦茶なカーチェイスを繰り広げながら、会場へ。会場では瑛太の過去や起こった事をアナウンサーがすべて解説していて、それを知った客はボルテージマックス!田中麗奈も登場!瑛太は滑り出す!過去の自分に勝つため!そして田中麗奈を勇気づけるため!今までの情けない自分をかき消すために、自分が失敗した技に再び挑む!
そして…瑛太は…
見事にこける!(笑)
んで、起き上がって、滑って、みんなの拍手をもらって、映画は終わる
なんじゃこりゃー!!!
『銀色のシーズン』は冒頭の1時間でしっかりとドラマを構築し、後半の1時間でそれを粉々に破壊するという強烈な怪作。爆笑必至なので絶対必見!
ちなみに『銀色のシーズン』でも田中麗奈が泣くシーンはクローズアップで涙が映っておりました。