成瀬巳喜男ベストテン

成瀬のドキュメンタリーを観る。いろんな有名人が成瀬巳喜男について語るという番組。これBSで放送したんですけど、この番組好きで何回も観てるんですね。黒澤さんのも持ってるし、成瀬巳喜男も持ってるのに、小津さんのは持ってないんだなぁ。

意外と思われるだろうが、私は成瀬巳喜男が日本の監督で1番好きである。映画自体は小品も多いが、監督として、あれだけ作品に外れがないのも珍しい。私は『東京物語』と成瀬巳喜男の映画を観て、後味悪い映画こそ、現実に近いんだという事を知ったし、黒澤さんの方が作品の数観てるんだろうけど、なんか成瀬巳喜男はフランス映画っぽいんですよね。小津さんはフランス映画っぽくない。やっぱりうどんとかそばの様な映画。黒澤さんは日本映画であるにもかかわらず、世界にも通じるすき焼きとか天ぷらの様な映画。溝口健二はもっともっと繊細な、白身魚の刺身みたいな、それに金箔乗ってる豪華さも持ち合わせた映画。成瀬巳喜男はなんだろう、何にも例えられない映画なんだよなぁ。ヨーロッパと融合した感じ?ウォン・カーウァイもカラックスも影響受けてるんだよね。私はウォン・カーウァイもカラックスも大好きで、ゴダールも成瀬も後追いだけど、そういう部分で繋がってるんじゃないかなぁと。

成瀬巳喜男を見返す前に、自分で成瀬映画について振り返ろうとしたのだけれど、それでもチョイスしてるのは世間の傑作ではなく、どうも私的になってしまう(笑)

ではいってみましょう。

1位『浮雲

うーん、どうしてもねぇ『浮雲』になってしまいますよねぇ。これはしょうがないっすねぇ。世界レベルで見ても10本の指には入る恋愛映画ですからねぇ。森雅之高峰秀子の退廃的なムード。岡田茉莉子がこの2人の関係を崩しにかかるところもいい。原作も読んだが、原作を読むとシンプルな映画版の偉大さが良くわかる。屋久島に行くところのワンカットはまるでフランス映画のようだ。



2位『流れる』

この原作の熱狂的なファンが知り合いにいて、その繋がりで観た。山田五十鈴高峰秀子岡田茉莉子田中絹代杉村春子というありえない女優陣の共演、宮口精二の見事な隠し味、女優がメインで脚本も原作も女。それを男の成瀬巳喜男が撮ったからこその出来。原作家にあるんだけど、これまた読んでない。時代に取り残されていく芸者置屋というのも好き。



3位『おかあさん』

なんつっても、号泣度が高い成瀬巳喜男のシンプルイズベストな傑作。演出もカメラもすべてがシンプルすぎるくらいシンプル。ありえなくくらい悲劇が次々にやってくる展開。地味ながらも心に染み入る成瀬映画。



4位『妻として女として』

成瀬映画として完成度はちょっと緩いのかもしれないが、ジェットコースターな展開が観る者を掴んで話さない恐怖映画(個人的には)妻と愛人の直接対決は怪獣映画のそれよりもスリリング!森雅之がおろおろしてるだけの役でそれが笑える。



5位『晩菊』

杉村春子はいつも嫌みなおばさんを演じているが、その最高峰とも言える作品。隣の芝生は良く見えるものというが、人の生き方について深く考えさせられる映画で、何が幸せで、何が人生なのか、ケチな金貸しの杉村春子は表情だけで体現する。これこそ成瀬映画の最高峰だと呼び声も高い1品。



6位『驟雨』

成瀬巳喜男原節子とも組んで何作か撮ってるが、その中でも『驟雨』は最高傑作じゃないだろうか。『めし』や『妻』『夫婦』を掛け合わせたようなテーマだが、ディテールの細かさも含め、成瀬演出の極みがぎっちり。ラストの紙風船は『晩春』のリンゴ剥きに匹敵する名シーン。中北千枝子が演じたイヤミババアは当時、観た時にぶっ殺したくなったくらい上手い(笑)



7位『山の音』

原作がめちゃくちゃ好きで、原作から入ったのだが、原作よりもやるせないラストが強烈で、初めて成瀬巳喜男が小津のようにハイソな家庭を撮った作品。1番インパクトがあったのが原節子の鼻血だが、原作の持ち味はきっちり活かしてるように思う。伊勢エビ買って来て欲しいなぁ(笑)



8位『銀座化粧』

田中絹代の可愛さよりも、ハリー三村のカメラがとにかく秀逸でラストカットの見事さは成瀬映画の最高峰。確かクレーン使って店の下から上にグーって行くカットあった気がする。んで、それがオーソンウェルズみたいだった覚えが…記憶違いだったらすいません。



9位『夜の流れ』

成瀬巳喜男川島雄三が共同で撮った作品だが、こちらも『妻として女として』同様のドロドロジェットコースターの愛憎劇。山田五十鈴をキレイだと思ったのもこの作品。後半のドンデン返しとセットの見事さはあいかわらず。



10位『舞姫

仮面夫婦であった二人とそれぞれを慕っている子供達の苦悩と葛藤がテーマ。成瀬監督の作品の中でも、もっともプロの仕事、いわゆる職人監督の腕が観られる作品で、川端康成の繊細な人物描写を新藤兼人が大胆に刈り込み、見事なカメラと美術で映像化、運命をなぞるような音楽と岡田茉莉子の殺人的なかわいさなど、すべてが秀逸。特に今作のカメラワークは成瀬監督の中では異色、とにかく動きまくるのだ。目線の演出はさすがの一言だが、食卓のシーンでパンしたり、ラストではクレーンを多様したりと、とても優雅なカメラワーク。個人的には大好きな岡田茉莉子のデビュー作という事で。



うーん、いざ10本挙げると、意外と成瀬映画の中でも変なもんばっかり選んでるなぁ。『コタンの口笛』はすごく良かったけど、二度と見たくないくらい重かったし…『めし』とか『妻』『夫婦』とかの方が人気あるのかもしれないけど、私のベストはこうだなぁ。あんまし参考にならないかもしれない(笑)『乱れ雲『乱れる』『鶴八鶴二郎』『女の座』『女の中にいる他人』『歌行灯』とか、家にあるのに見てない体たらくだし。これからちょくちょく観ようかしら。

これから『エロ将軍と二十一人の愛妾』を観るお(^ω^)

あういぇ。