ミツバチのささやき

ミツバチのささやき [DVD]

ミツバチのささやき [DVD]

ミツバチのささやき』鑑賞。

なんじゃーこりゃー!!!!!!!映画における表現の頂点のような傑作!

セリフもほとんどなく、カメラも全く動かず、有名な役者も出ず、音楽もここぞって所以外鳴らないのに、

この感動!この躍動!心に深く染み入る映像美!この映画はホントにすごい!すごすぎる!

私は今までいろんな映画を観て来たつもりだが、これは間違いなく人生のベスト作だ!まさかこんなところで出会うとは思わなかったが、『ミツバチのささやき』には、タルコフスキーブレッソン小津安二郎も出来なかった恐ろしい到達点に達しており、映画という媒体にしか出来ない表現と演出があり、詩的で美しい映像があり、深い感動と、華麗な音楽と、究極の映像美が渾然一体となり、一言では言い切れないほどの魅力に包まれている。

超が付くほどのロングショットは1枚の絵としての完成度が恐ろしく高く。長回しされてもまったく苦痛ではない。自然を使った超絶な映像はタルコフスキーを彷彿とさせ、すべての映像が何かを象徴しており、それをこちらに伝え切ってる演出力には驚く。キノコを踏みつけたり、猫を殺したりするというのは、思春期のモヤモヤを象徴しており、ただでさえ揺れ動く心の琴線がスペイン内戦という激動の中で静かに振動していく。この繊細な演出は『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』を彷彿とさせるが、あきらかに影響されてる事がわかる。夢も希望もない世界で、何かに依存して、それに夢中になるというのは『パンズ・ラビリンス』にも受け継がれてるが、『ミツバチのささやき』は主人公がそれを口に出したりせず、行動だけで分かるようにしている。

フランケンシュタインの映画を観た主人公が、フランケンシュタインを恐い怪物だと思わずに、森の精霊だと思い込み、そのフランケンシュタインを探しに行き…(それは映画を観てからのお楽しみ)というシーンがあるのだが、ここもセリフは無く、長回しで女の子をウロウロさせるだけ。さらにその後も遠くからの光と音だけで○○のシーンを表現するなど、とにもかくにも演出のすべてが完璧だし、最小限でここまで分からせ、ここまで深みを出すのはホントにすごい!

井筒監督は『息子のまなざし』を見た時に「セリフが少ないのもな、人間ってそんなにしゃべらへんねん」と言ってたが、(あ、『息子のまなざし』は超が付くほどの傑作だぞ!絶対に観ろ!)まさにそれが『ミツバチのささやき』にも当てはまるのだ。

セリフで語らず、映像ですべてを表現しきるのはブレッソン小津安二郎を彷彿とさせるが、『ミツバチのささやき』はもっとシンプルでもっと深みがある。場面転換はフェイドイン/アウト、カメラを置いて、同じワンカットでオーバーラップさせる事で時間経過を表現。トラックアップ/バックもあまりなく、極端なカメラワークはハッキリ言って皆無。すべてのワンカットが完璧な構図でカメラも動かないのにもかかわらず、『ミツバチのささやき』は映画的な興奮と表現が最初から最後まで持続する。

私は今後「完璧な映画は?」と言われたら『ミツバチのささやき』と答えるだろう。好き嫌いは別にしてもここまで映画を使って、自分の言いたい事や詩的なものを表現した映画を私は他に知らない。