hackerさん*1からメールが来た。
「katokitiさんの好きな『300』をけなすレビューを書きました。1つの視点ですから、あまり気にしないで下さいね」
わざわざ送って来るとは、さすが東京のお父さんなのだが、『300』は賛否の否も多いので、別にそれはいいのだけれど、それよりも何よりも、そのレビューが見事な視点で書かれていて、かなり衝撃的だったので、引用させていただく事にした。
以下、hackerさんの『300』レビュー
私の知っている範囲での、歴史的事実を述べます。簡単に言ってしまえば、スパルタ人の生活は、彼らよりはるかに大人数の奴隷達によって、支えられていたのです。農作業、工業等を奴隷達にやらせていたからこそ、人間としての生活ができていたのです。そして、少人数が多数を治めるために、自らの肉体を強固なものにする必要があったわけで、そういう人間たちが、「自由」を語り、服従を拒否するのは、当然と言えば当然、滑稽と言えば滑稽です。映画の中では、ペルシャのクセルクセス大王は暴君そのもののように描かれていますが、このようなスパルタの国家体制を考えると、実におかしなものです。
ところで、当時のギリシャは、スパルタとアテネを中心とした、多数の都市国家でできていました。映画のラストにもありますが、最後は、このギリシャ連合がペルシャ軍を打ち破るのですが、この当時のギリシャの国家体制は、アメリカ合衆国を連想させるものがありますよね。これに対し、ペルシャ人は、言うまでも無く現在のイラン人の先祖であり、中近東の支配者でしたから、現イラン及びサダム・フセインを連想せざるをえません。劇中、援軍の派遣を主張する女王に対し、議会が反対する、という構図は、つい先日イラク駐留部隊の大幅増員をめぐっての、「自由と民主主義」が好きなブッシュ大統領とアメリカ議会のやりとりを連想させます。
………他にも奇形者を裏切りものにするのは許せないとか書いてたのだが、
つまり、簡単に言うと、『300』はトンデモない思想の映画であるという事だ。イラク戦争を少なからず反映し、それを正当化しているような映画だと。
『300』は何回も言ってるように原作のコミックをそのまんま移し替えた映画だ。マンガのワンカット、ワンカットをなぞるように、そっくりそのまんまフランクミラーの絵を再現した。『300』の原作が発表されたのは98年でイラク戦争が起こる前だが、実はhackerさんが指摘しているところは鋭くて、
“援軍の派遣を主張する女王に対し、議会が反対する”という場面は原作には無い。
人のレビューを引用しておいてなんなのだが、実は原作にはあの評議会のくだりはおろか、奥さんに言いよって来るところもまったくない。hackerさんが指摘してる部分は後から足されたものだ。これは明らかにイラク増員のメタファーであって、確信犯と言ってもいいだろう。監督が戦争に対して賛同してるかしてないかはこの際置いておいても、間違いなくイラク戦争を反映してる映画になってるわけだ。というか、『アイ・アム・レジェンド』しかり、『キングダム』しかり、今のハリウッドで現実を反映させた映画を撮るとなると、こうなってしまうだろう。
ウィキペディアにはこんな記事があった。
・イラン政府がイラン人の先祖であるペルシア人を激しく冒涜しているとして非難している。
・映画製作関係者達は、「この映画は、単にイラン人とスパルタ人の戦争物語を、真実と異なる形で語っているもので、歴史を正確に伝えるものではない。」と、この映画が実際の事実とは異なることを認めている。
実は、このようにトンでもない思想の映画というのは数多く存在している。
最近では『アポカリプト』だ。町山智浩さんがポッドキャストで言っていたが、『アポカリプト』は『パッション』同様、カトリック原理主義的発想の映画で、ユカタン半島にいた原住民をキリストが大虐殺した事実をねじ曲げて正当化してる映画らしく。快楽的で邪悪な宗教(実際は不明)のマヤ文明をキリストが虐殺した事で滅んで良かったね。という事らしい。オレはよーわからんけど。
ところが『アポカリプト』はものすごくおもしろい。役者は無名でただ走りっぱなしの映画だが、映画というのはやはり監督が作るもんだというのを改めて思い知らされる傑作中の傑作だ。
思想は間違ってるにしても、映画自体はとてつもないおもしろさに満ちている。それだったら『風と共に去りぬ』しかり『ドラゴン怒りの鉄拳』しかり『ミュンヘン』しかり『シンドラーのリスト』しかり『アメリカン・ギャングスター』しかり細かい事を言い出せばキリがない。ありとあらゆる映画は間違っていて、そしておもしろいという事なのだ。
これはなんだろう、尾崎豊や井上陽水が覚醒剤をやってた事を知ったみたいな感じか?ミスチルの桜井が愛を歌った後に不倫してたみたいな?
そういう事実を知って、もし『300』が間違った思想の映画だったとしよう。でも、『300』はとてつもなくおもしろい。映画的快感の塊だし、何よりも革新的なアクションの撮り方をしている。女人禁制の映画ではあるが、衝撃的な傑作だ。それは私にとって揺るぎない事実であり、これからも変わらない。
今回『300』にそういう側面があるかもしれないと指摘して来たhackerさんのレビューには感銘を受けたが、つまり、ネットをやってるとこういう事を教えてもらえるから素敵だなぁと思うわけで、映画には思想的に危険な事を言ってるけども、映画自体が途方もない傑作というのはたくさんあるという事なのである。あういぇ。
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*1:東京のお父さん