ミスト


『ミスト』をTジョイまで観に行く。

ちょー傑作!こんなに素晴しい映画がTジョイでしか公開されないって、

ホントにバカだろ?マジでノータリンしかいないのか!新潟には!

何が政令指定都市だ!バカたれ!死ね!みんな死ね!

加藤和彦がフォークルからミカバンドになったように、手塚治虫が『ブラックジャック』や『鉄腕アトム』を書いたように、スタローンが『ロッキー』と『ランボー』を演じたように、フランク・ダラボンも『ショーシャンクの空に』と『ミスト』という大傑作を作り上げてしまった。フランク・ダラボンはこれを作ってしまったら、後は何を作るというのだ?

つーか、これ今年のベスト1だろ?オレが言わなくても、絶対にベスト1だって。『ミスト』と『クローバーフィールド』で今年は決まりだっつーの。

まず本気で『ミスト』のレビューや評論を書くのは絶対に無理。様々な要素が入り込みすぎてる。1万文字以上はいるんじゃないかというくらい多面体な魅力があり、どれか1つに焦点を絞れない。もし、この世界に完璧な脚本があるとするならば、『ミスト』の脚本は限りなくそれに近いモノで、この脚本があれば、誰が撮っても完璧な映画になり得るはずである。

遊星からの物体X』と『ゾンビ』と『ポセイドン・アドベンチャー』を上手いバランスで混ぜ、さらにスティーブン・キングならではの宗教観。残虐的な要素もふんだんにあり、もしこの世に神が居るならば、やはり人間は神に逆らえないのか?という重厚なテーマまで披露し、モンスターパニックのおもしろさも120%ぶちこんである。

『ミスト』には映画的な絵の作り方は皆無。冒頭の嵐のショット以外。映画的な絵作りをまったくしていない。カメラワークは映画的なんだけれど、1枚のカットの作り込みは実に映画的とは真逆だ。例えば、ステディカムによる長回しが出て来ても、長回しをしてるという感覚の絵作りはしてないし、息子を抱くシーンでも、人が2人収まらず、鼻から下がぶった切られたりする。平気でズームアップはするし、カメラの前をピンボケた人が当たり前に通るし、キャラクター全員にピントを合わせてるシーンがなかったりもする。クレーンショットはまったくないが、最後の最後でクレーンショットが出て来て、それはもちろん意味がちゃんとあるように使ってるのだが、映画的な絵作りはこれくらいのもんだろう。これは方法論なので、どれが正解というのはないが、映画的にスタイリッシュにまとめてしまった場合、「これは映画なんだ」というのが潜在意識に刷り込まれてしまうので、ここまでウソ丸出しの話に引き込むには、映画的な絵作りから遠ざけて、もっとTVのニュース映像のようなものにしないと引きずり込めないのかもしれない。だからと言って『クローバーフィールド』のように素人が撮ってしまったという感じはなく、やはりそれは映画的な演出であって、例え絵作りがリアル指向であっても、カメラワークが映画的なので、それによって「映画を観てるんだ」という感覚と、「なんかすげぇリアルに感じるなぁ」という感覚が同居してるようにも思える。

冒頭で『遊星からの物体X』のポスターが映るが、この時点でどういう映画なのか?というのは映画ファンなら気付く。『遊星からの物体X』を下敷きにしているが、世界観は『ゾンビ』のようにキリストがベースだ。人間の想像を超えるものがやって来た時、日本だったら、人為的なものか、宇宙から来た何かを想像するが、アメリカだと神を冒涜した人間に対する罰という捉え方をする部分があり、もし霧の中の「アレ」が神が送り込んで来た使徒だとすると、じゃあ悪魔は一体何なんだ?という疑問が沸く。私はキリスト教の事をそこまで勉強してないので深いところは分からないのだが、実際、「アレ」の事を『悪魔だ!』と呼んでるシーンもあるので、その辺の事が分かればもっとおもしろいんだと思う。

この手のパニック映画(特にハリウッドの)で重要なのは、神はいるのか?いないのか?モラルとは何なのか?人間はどうすればいいのか?という問題にまで深く踏み込んでいく事。『ポセイドン・アドベンチャー』もそうだが、自分たちの身に絶望が迫って来た時、その時、人間にはどうすればいいかという答えなどない。何が正しくて、何が間違ってるのかは分からない。神にすがるのは正しいのか?祈っても無駄なのか?神に歯向かうべきなのか?自分の身が危険ならば他人を殺してもかまわないか?自分と考えが一致しない場合、危険がそこに迫っていても見捨ててもいいのか?例えば『ゾンビ』を観れば分かるが、死者が蘇ってくる事などあり得ない、あり得ないが、それに似た何かが起こる事は考えられる。人間が極限状態になった時、法律も人種も宗教も何もかもがなくなった時、果たして何が正しいのか?というのはこの世にはない。『ミスト』はその要素を説教臭くする事なく、娯楽の中に混ぜ込み、しっかりと昇華させている。なので、中身がないような良い意味で薄っぺらい映画になってない。

特にラストが凄まじく、宣伝通り、衝撃のラストが待ち受けている。個人的には腰抜かしそうになった。

フランク・ダラボンの映画には、ぶっ殺したくなるくらいムカつくヤツが出て来る。『ミスト』になると、それがわんさか出てくるんだけど、今回『ミスト』はそれのムカつくヤツが“悪人”として出て来ない。それがそのラストに結びつくんだけど、何が正しくて何が悪いのかというのは極限状態になると分からない。これは『ポセイドン・アドベンチャー』にもあるが、ここまで明確に表現して来るとは思わなかった。実際、主人公だって見方によっては極悪人とも言えるし。

『ミスト』はモンスターパニックとかホラーという枠に当てはまらない、超絶の傑作。ラストが嫌いっていうヤツは無視します。あういぇ。