ハッピーフライト


9時45分より『ハッピーフライト』鑑賞。矢口史靖監督は大好きで、って言いながらも、最高傑作とされる『ひみつの花園』を観てなくて、ファンになったのは、レンタカー屋の店員とメガネ女子のイケてない看護婦が大金を持ってヤクザから逃げ回るというどっかで観た事あるようで、無いようなプロットの『アドレナリンドライブ』から。その後に大メジャー作の『ウォーターボーイズ』を監督したが、これが娯楽作としてひねりがあって、実におもしろく、その後の『スウィングガールズ』はダントツの出来でその年のベスト作の1本という。普通にファンだけど、全作品観てないっていうスタンス。

んで、まぁ観たんだけど、よくこれ、1つの映画にしたなとまず関心した。単純におもしろかった。だって、言ってみれば、ヒコーキ飛ぶだけっすよ。別にテロリストが乗ってるわけでも、空港が機能しなくなるとかいうパニックもない。でも、そっちの方がリアルっちゃリアルか、逆に言えば、原作がないというオリジナル作品としては無茶苦茶評価出来る。

役者は全員オーバーアクトで、これ『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』でもあったけど、あっちは男子のシンクロとか女子高生のジャズバンドとか、1つのコンセプトのみフィクションで、後は映画的な表現の塊だったから、どういう風に物語を転がそうが、演出しようが、あんまり違和感なかったんだけどね。

これが『ハッピーフライト』になると、飛行機を飛ばすというフィクションが全体のテーマになってるんで、飛行機というか、空港がどのように機能するかっていうのをリアルにしないとダメだと思ったから、このオーバーアクトがやたら目についてしまって、冒頭の田辺誠一はドギマギしすぎだし、綾瀬はるかは驚く表情や楽しそうにする様が嘘くさいし、寺島しのぶも別にみんなから恐れられてるほど怖い感じもないし、っていうか、うまいなぁって思ったのは田中哲司くらいで、あのドラマ、、、なんだっけ、、、そうそう!『ナースのお仕事』観た時と同じ感じっていうか、「そんな看護婦いねーし!そんなにオーバーにするヤツ病院にいねーよ!」っていう感じ?まぁ、ドラマだからいいか、って思って観てたけど、それがうーんって感じになるんだよね。多分、監督があえてオーバーにやってくれ、って言ったんだと思うけど。専門用語や空港の中は見事な箱庭感だったのに、そのオーバーアクトでリアルな感じを削がれるよなぁって思いながら観てたら、、、、

これが後半になるとぐーっと活きて来て、あー、うめぇなぁと。つまり、単純に空港があって、飛行機が飛んで、トラブルがあって、着陸するだけっていうプロットでしょ。だから前半から肩が凝るくらいのリアルさで行くと、後半にスリリングになったとしても、同じテンションで観ちゃうから、あんまし落差がなくて、きっと物足りない感じになるか、あと疲れると思うんすよ。あの主人公達と同じように、「ふひー」ってなると思う。んで、よく考えると『ナースのお仕事』もそうだった。あれもうそくさーいくらいのオーバーアクトだけど、血は出て、シリアスになるところはとことんシリアスになる。今やってる『流星の絆』とかもそうじゃねぇ?ちゃんと観てねぇけど。

だから『ハッピーフライト』は1つ山を越えた後に、フランク・シナトラかかって、あれがまた良いっていうか、さらに後日談が出て来て、『ダイハード』みたいな終わり方が実に気持ちがいいっすね。撮ってる方も楽しそうなのが伝わってくる。あのハリウッド的な終わり方がいいんだよ。ホントに大作を観たような気分にさせられる。音楽って重要ですな。とにかく『ハピフラ(勝手に略した)』は映画的な嘘とリアルさのバランスがちょーどいい。

個人的に田辺誠一を今までで1番かっけーと思った。ずるいよ、前半へなちょこなのに、後半で通過儀礼があったかのような男前なんだもん。しかも管制塔の誰かが「よく滑走路に戻したな(この不安定な風の中で)」みたいなニュアンスで一言だけいうでしょ。あの一言があるから、男前度もアップしてる。小技も利いててうまい。

正直、じゃあ、完成度高いかって言われると、バランス悪いところもあるし、何よりもオーバーアクトになりすぎて、人物描写が丁寧じゃなかったりとかあるけど、これは空港の動きと飛行機を飛ばす事を楽しく見せる映画だからいいと思いまーす。結構おすすめ。ロバート・アルトマン伊丹十三を足したような感じです。