チェ 28歳の革命


チェ・ゲバラと言えば、ある世代にとって革命のポップアイコンであり(つーか、ホントに革命家なんだけど)、アメリカの傀儡国家だったキューバ社会主義国家にしたカストロの右腕。映画の予告編でも20世紀最大のカリスマと評される。私も葉巻にハマった時に、葉巻を特集してた雑誌にキューバ革命の事が出てて、それを読んだくらいの知識だったが、私の彼女に「チェ・ゲバラって知ってる?」って聞いたら、「ゲバラくらい知ってますよ!バカにしないでくださいよ!」と言われたので、若い人も知ってるんだろう。

さて、そんな20世紀最大のカリスマであるチェ・ゲバラキューバ革命を徹底的にゲバラの視点からソダーバーグが描き出す。ソダーバーグは『オーシャンズ11』や『エリン・ブロコビッチ』などの娯楽テイスト溢れる作品と『セックスと嘘とビデオテープ』や『イギリスから来た男』『トラフィック』などの作家テイスト溢れる作品の2つに別れるが、『チェ 28歳の革命』は後者である。まるでゲバラと行動を共にしているような臨場感がハンパじゃなく、グラグラ揺れたピンぼけな手持ちカメラも、うまーく構図に収まってない画面も、『チェ 28歳の革命』では効果を発揮している。とにかくリアル指向で、映画を観ているような感覚よりも、ホントに、その時代の、その場所に居るかのような錯覚を覚える。

時間軸がブレまくりで、過去と未来と現在を行ったり来たりするが、ベニチオ・デル・トロが見事にその時代を演じ分けてるので、見失う事無く、ゲバラの思想と行動が、時間軸のずれによって交錯する。ゲリラ戦にあわせて、ゲバラのインタビューをカットバックさせる事で、「あの戦いの時、ゲバラはどう思っていたのか?」というのも、嘘くさくなく演出している。革命家であり、カリスマと呼ばれる一方で、ゲバラは殺人鬼だし、処刑もするし、冷徹で血も涙もない男であるというのも同時に描かれているので好感が持てる。

個人的に好きだったシーンはゲバラの革命に人々が賛同していくところだ。革命というのはやはり民衆が立ち上がらないといけない。ゲバラは一方で人殺しだったはずだし、批判もされただろうが、誰かが一緒に立ち上がらないと意味が無い事を誰よりも知ってた男のようにも思える。

映画はこれと言った見せ場もなければ、ゲバラの内面はほとんど描かれず、何に駆り立てられて革命に参加したのかも描かれないので、その辺は2時間以上もあるのに、外しちゃったのかよ!と思ったが、これはソダーバーグにとっての『パッション』なんじゃないかと、ゲバラが革命をどのように起こし、どのように人々を先導していったのか?だけに固執した映画なんじゃないかと。

まだ革命というのは始まったばかりなんだ!というのをゲバラは観客に叩き込んで映画は終わる。その次に行く感じがなんともリアルで映画的ではないのだけれど、その信念を表すには完璧な演出だったように思える。そう、現実は映画と違う。ソダーバーグは映画的な演出をぜーんぶ外しちゃったけど、それが『チェ 28歳の革命』には合ってたんだろう。

それにしても葉巻が吸いたくなる映画だ。久しぶりに葉巻でも吸おうか。あういぇ。