『少年メリケンサック』ネタバレありの感想


15日の夜
アイデン&ティティ』の映画を観る。やはり何度観ても号泣してしまう。特に最後、大人に対して、ありとあらゆる権力に対して、売れる為にロックの名を借りて曲を作り続けた自分に対して、とにかく全ての事に対して、破滅的に叫び続けるあのシーンには号泣せざるを得ない。原作では“キチガイ”という言葉を使ってるのだけれど、映画では“バカ”というちょっと和らいだフレーズになってる。かなり『アイデン&ティティ』は観てるが、今回観ても泣いてしまった。つーか、ここで泣かないヤツは今すぐロックを聴くのをやめるべきだと思う。

『ワイルド・バンチ』の如く、中島達がスローモーションで出て来て、メガネを外す。これだけで、何かを決意した事が読み取れる。『この歌を、ロックを単なるブームとして扱った馬鹿共に捧げる。ロックで金儲けしようとした馬鹿な大人たちに捧げる。自分のことをあまりにも知らなさすぎる、馬鹿共に捧げる。ロックを冒涜する、ミュージシャンもどきに捧げる何の疑問も持たず、漫然と暮らしている奴ら他人の人生を笑いものにする奴らお前らみんな、偽善者だ!』という中島の叫びで破壊的な演奏がスタートする。ジョニーの笑いと、麻生久美子演じる彼女の笑い、叫び続ける中島、このカットと演出は映画ならではのもんだと思うし、台詞で説明せず、すべてを映像で表現しきっているこのシーンは完璧だと思う。映画というのは爆破したり、敵をやっとの思いで倒したりしなくても、エモーショナルなシーンは撮れるんだという事を改めて実感させてくれる良いシーンだ。

そして、ラスト、中島のMCの後にかかるボブ・ディランの『ライク・ア・ローリング・ストーン』でさらに泣ける。しかも歌詞をちゃんと翻訳したものを字幕で出した事も良い。田口トモロヲ監督の『アイデン&ティティ』はやはり何度観ても素晴らしい。

うおー!という気持ちになって、テキーラを飲み続けた。

16日朝
少年メリケンサック』鑑賞。

ふ、ふ、ふ、ふ、ふざけんなよ!!!!

こ、これは何だ!?これで映画と呼べるのか!?マジでふざけんなよ!!!頭にきたー!!!!!!!!!

少年メリケンサックという少年ナイフをもじったバンド名も良いし、バンドのメンバーも完璧に近いくらいの役者を集めたし、宮崎あおいは最上級にかわいいし、気の利いたギャグも、劇中で使われた音楽も最高。つーか、絶対にサントラが欲しい。

じゃあ、何がダメなのか。それは脚本だ。脚本が壊滅的に悪すぎる。

脚本が悪すぎるために、個々の魅力がぶつかり合いすぎて、4番バッターばかり集めた野球チームのように映画として機能してない。仮にそれが演奏が下手でも魅力的なパンクバンドのようだと言うのなら、それこそ最悪で、ちゃんとリズム隊がしっかりしてるからスリーコードでも、シャウトしてても成立するんだよ!それがあっての初期衝動だろう!パンクってヤツわ!オアシスだって、へったくそでも、1000万人を掴むメロディがあったからだろ!スパイスをまぶすのはいいが、ちゃんと出汁を取って、しっかり具材も切って、味付けをしてから、まぶさないと料理として成立しないんだよ!ファック!

まず、ストーリーなんだけど、これ、どういうストーリーなの??

宮崎あおいmixi少年メリケンサックというバンドのライブ映像を見つけて、衝撃を受け、初期パンクのド直球世代であるレーベルの社長も気に入り、スカウトしに行く、ところが、そのライブの映像は20年以上前のもので、バンドのメンバーはもう腹も出たおっさん。ところが、社長が勝手にホームページにライブ映像をアップしたら、アクセスが殺到し、ツアースケジュールも組んで、グッズも作ってしまった!ホームページを観た人も、社長も新人の荒々しいパンクバンドだと思っている!という非常におもしろそうな設定で、映画の滑り出しはホントに最高なんだけど、そっから先の事がよくわからない。

確かに少年メリケンサックの当時のファンが“あれは当時の映像で再結成かもしれない”と騒ぎ立てれば、この物語は成立しなくなってしまうし、その当時のファンがまた集まってるという設定も加われば、あんなおっさんでも人気があるという事も出来るはずだ。んでもって、演奏も上手ければおっさんでも人気が出る事の証明とかになっておもしろくなるし、宮崎あおいがパンクを心底憎んでいて、それが彼らの力で好きになれば、とか、ホントにああすればいいんじゃねぇの?こうすればもっともっとよくなるんじゃねぇの?っていうのは山ほどあるので、それは言い出したら切りがないから止める。

木村祐一佐藤浩市の位置関係は曖昧、田口トモロヲが何故あんな事になるのか(観てない人のために伏せるが病院でのくだり)、宮粼あおいは彼氏の音楽を嫌いなはずなのに、それを示す伏線もなければ、少年メリケンサックが好きなのか、どーかも結局のところよくわからない。バンドの演奏力の事だが、何故うまい事いったのかの説明もないし、最初のライブが最低だったのに、その後彼らは人気が出る、でも、人気が何故出たのかというのがまったく説明されないので、何がやりたい映画なのか分からなくなってしまう。佐藤浩市と息子のところも絶対に要らないと思うし、木村祐一の過去もあんなに細かく説明しなくてもいいと思う。

オチもなんだかなぁだし、これは中年のおっさんのパンク魂を示す話なの?それともくだらない音楽が溢れてる音楽界への批判?宮粼あおいがパンクを好きになり、彼らに影響されてパンク化していく話?なんなの?



ここからネタバレ。


実はバンドは中年のおっさんだった→木村祐一はバンドをやりたくないと言っている→それでもなんとか再結成して強引にツアーに出る→演奏もガタガタで客も社長も大激怒→それでもキャンセル出来ないので、ツアーを続ける→ところが突如演奏が上手くなる→何故か人気も出てくる→佐藤浩市木村祐一は過去に様々な確執があったらしい→それがツアー中に大爆発して大げんか→TV出演が決まってたのに、それぞれ腕を骨折→苦肉の策としてなんとかTV出演→んであのオチ。

何だこの流れ?意味わかんねーよ!

だったらさ、

実はバンドは中年のおっさんだった→それでも演奏は当時のままだったので人気が出た→でも、佐藤浩市木村祐一の溝は深い→そのせいでうまく行ってたツアーも台無しになる→宮粼あおいが彼らに説教をする→彼らは長年の確執を音楽で乗り切りTVに出る→TVに出た事で人気がさらに出る→んで、田口トモロヲがあんな事になって終わり。

でいいじゃん!!そういう物語の基本的な構造をやった上でぶっ飛んだ事をしなさいよ!!


ネタバレ終わり。




宮藤官九郎は確かに原作モノは素晴らしい。物語の下地があって、そこにギャグや台詞のおもしろさというクドカンらしさを滑り込ませる事には定評がある脚本家だったはずだ。実は観てないが『真夜中の弥次さん喜多さん』も原作にかなり忠実な物語らしい(彼女が言ってた)。情熱大陸でプロットを書くのが嫌いで台詞でごまかす事も多々あると言ってたから基本的には物語を転がす事が出来ない人なのかもしれない。いや、私クドカン好きなんですよ、ドラマのDVDも持ってるし、グループ魂も大好きだし、だからファンとしてあえて言う、クドカンにもうオリジナルものはやらせるな!!

というか、こんだけ怒りが頂点に達したのは、もっともっと良くなるのに、この体たらくかよ!という憤りが強いと思われます。あういぇ。