設定にホッタラケが多い『ホッタラケの島』


『ボルト』を観た後に『ホッタラケの島 〜遥と魔法の鏡〜』鑑賞。

日本でハリウッド風の作品が作られる場合、必ずと言っていいほど、様々な映画の断片を組み合わせて作られる事が多い。『マトリックス』と『M:I-2』っぽい『リターナー』や、タランティーノ作品と『狼たちの午後』と『明日に向って撃て』を混ぜた『スペーストラベラーズ』、和製ダイ・ハードと言われた『ホワイトアウト』、『ブレードランナー』と『マトリックス』の『CASSHERN』がそれに当たるのだが、本格的なフルCGアニメとなる『ホッタラケの島』もご他聞に漏れず、美術や表現にいろんなモノの断片が隠れている。

ストーリーは『千と千尋の神隠し』で、ホッタラケの島の造形は大友克洋の『大砲の街』と『鉄コン筋クリート』、さらに絵や動きはゲームの『大神』のトゥーンレンダリングに酷似している。

ところが、『ホッタラケの島』が今までの作品と違ったのは、それら元ネタとなってるであろうものが、全部日本であるという事だ。ハリウッドに負けない映画を作る場合、何故か日本独自のものを目指さず、ハリウッドっぽい物を日本で作ろうとするから、どこか無理が生じる。『ホッタラケの島』は全体的にオリエンタルな雰囲気で、そう言った無理矢理感が一切無かった。海外を視野に入れてるとしたら、大正解の作りになっている。

さて、『ホッタラケの島』だが、展開がスピーディーな為か、説明不足な部分と強引に感じる設定が入り交じっていて、首を傾げるところが多かった。タイトル通り、ホッタラケになったところを過剰書きにしてみる。



・母親の形見となる手鏡をホッタラケにする理由がホッタラケ。

主人公は最初から亡き母親を大事に思っていて、別にホッタラケにしてないように思える。むしろ、ホッタラケにしてない手鏡をキツネみてーな生き物が勝手に盗った風に映ってしまい、大事な物は失ってから気づくというメッセージが台無しである。主人公が女子高生なんだから、携帯だの、コンビニだの、友達付き合いだの、母親の手鏡をホッタラケにしてしまった現代的な理由などいくらでも作れると思うのだが、その理由付けがホッタラケだ。



ホッタラケの島に着いてからの順応性がホッタラケ。

主人公が得体の知れない島に辿り付いてからの理解が無茶苦茶早い。そこに住んでる生き物やその世界のシステムはおかまいなしで、ストーリーがグイグイ進んで行く。ここは人間がほったらかしにしたモンで出来てる→ならば私が無くした手鏡もあるはずだ→じゃあ探そう。と、観客の理解をホッタラケにして進んで行く。


・何故主人公の手鏡がホッタラケの島では重要なのか?の理由がホッタラケ。

というよりも、ホッタラケの島では鏡が貴重品である。理由は人間はなかなか鏡をホッタラケにしないかららしい。そうか?


・主人公が母親の手鏡にこだわる理由がホッタラケ。

テオという主人公のナビゲーターに「なんでその手鏡なんだよぉ!」とつっこまれるが、ぶっちゃけ、それほど高い手鏡とは思えないし、思い出は主人公にいつまでも残ってるわけで、物に固執してる理由がよーわからんかった。これはオレだけ?


・人間は物を大切にしないというメッセージがホッタラケ。

ホッタラケの島は人間がホッタラケにしたもので出来てるという説明があるが、あくまでも捨てたものではなく、ホッタラケにしたものなので、ホッタラケの島にあるものは、大事に保管している物だってある(だから主人公は手鏡を探しに来た)。それを勝手に人間界から盗むって、どーなの?どーせならゴミの島にすればよかったんじゃないのか?


他にも敵がステレオタイプだったりとか、脚本の甘さが目立つところは多々あって、まぁ、ハッキリ言ってしまえば、出来はそこまで良くない。ところが『ホッタラケの島』を観て、ぼくは号泣してしまった。号泣してしまった理由は他でもないテオというキャラの存在だ。

テオというキャラは物語上の狂言回し。魔法もろくに使えないボンクラで、いじめられてるのだが、このボンクラが主人公と出会い、通過儀礼を経て、最終的にアラン・ムーアのコミックに出て来そうなヒーローへと変貌する。

しかもテオが巻き起こす事はすごい。島の住民達に「お前らは男爵にダマされているんだ!立ち上がれ!」と大演説をぶちかました後、主人公を裏切る事によって得た汚い金をぜーんぶ使って島の住民に巨大な飛行機を作らせ、ホッタラケの島の独裁者が住む飛行船にその飛行機を突っ込ませて爆破、壊滅させ、独裁者が隠し持ってた宝を山分けさせる。

予告編やポスターからは想像出来ないだろうが、ずばり最終的に『ホッタラケの島』はマトリックス』になる。しかもテオを担当した声優がウマくて、さらに涙を誘う。ぼくは高度管理社会への反逆という物語に――――非常に――――弱い(笑)だから思わず号泣してしまったのである。

というわけで、オリエンタルな絵柄にひっそりと『マトリックス』を滑り込ませた『ホッタラケの島』は、今までに作られた打倒ハリウッド的作品の中では幾分好感が持てるものになっているので、『ファイト・クラブ』や『Vフォーヴェンデッタ』に燃えた者は必見だ。ただし、間違っても1800円では観るなよ!あういぇ。


【追記】id:doyさんから教えてもらった記事→http://filmmania.blog.so-net.ne.jp/2009-08-10

予定通りのスケジュールだと09年08月公開に間に合いません。


ここで投入されたのが、スケジュール進行の鬼、アニメーションプロデューサーです。彼はスタッフ全員を敵に回し、まずストーリーを90分に削る作業を行いました。ここで、実は映画の伏線がそぎ落とされてしまいました。キャラクター設定も変更が行われました。そうしないと映画の完成が遅れてしまうのは明白でした。これはスタッフ誰もが同じ思いで行った辛い決断でした。


そして約1年。ほぼ徹夜状態が続いて映画は7月31日に完成します。アニメーション監督の体重は13Kgも落ちてしまいました。その間には実は身内の不幸などもあったのですが、それを乗り越えての完成です。


映画の出来映えですが、こんな裏話があったのは嘘のように楽しいエンターテイメント作品に仕上がっています。ついに日本オリジナルのCGアニメが完成したことは誰が見てもわかります。今後の日本アニメーションの方向性を大きく変える作品となることは間違いありません。

伏線削ったってハッキリ書いてるけど、それは言い訳なのか?それとも誰かに突っ込まれる前に書いとけって事なのか?

あと、嘘のように楽しいエンターテインメントになってるか?最後『マトリックス』だぞ?アニメーション監督はこの地獄の日々がバーチャルな世界であって欲しいとか思ってたのかも。