メシウマの無い物語『サマーウォーズ』

去年大変話題になった『サマーウォーズ』をやっとこさブルーレイで観た。

細田版『時をかける少女』がとてもおもしろかったので、観たかったのだが、新潟で一番行きにくいシネコンでしかやってなかったのと、一番の書き入れ時でタイミングなどが合わず、結局見逃してしまった。

そしたら、こないだ、職場の後輩くんが、「ブルーレイを持ってないんですけど、『サマーウォーズ』買っちゃんたんですよね」と言ってきたので、「オレ観たことないから、じゃあウチで鑑賞会だぁ!」と、強引にご相伴にあずかることに。侍元にラーメンを喰らいに行って、その後コーヒーを飲みながら爆音上映会をした。

あ、ぼくは公開してからだいぶ経ってる映画は内容に踏み込んで書きますので、ここからは盛大にネタバレさせていただきます。ご了承ください。

最初に感想を言うと、良い所と悪い所がものすごく目立つ、ある意味でおもしろい映画だった。

ぼくの母方の家系は兄弟がとにかく多く、名前も覚えられないようなおじさんのハトコだの、おばさんのいとこだのがたくさんいて、正月や盆になると、じいちゃんの家に集まり、おっきなテーブルを居間に置いて、どんちゃんどんちゃんやる。おばさん連中は台所でせわしなくいろんな食べ物を出し、じいちゃんばあちゃんはちょっと離れたところに腰掛けて、お茶をいれてる。

いとこが婚約者なんか連れて来た日にゃ、一体何のイベントだよというくらいのバカ騒ぎで、去年の正月にじいちゃんが亡くなった時も、酔った香りを部屋中に振りまいたおっさん連中が、罵声やクソやかましい歌声を同時に鳴り響かせていた。あまりの嫌悪感にパソコンを抱えて、部屋に閉じこもっていたのは言うまでもない。

サマーウォーズ』の前半30分はこの様子がそのまんまとてもリアルに描かれていて、これは実写でもここまではなかなか出来ないだろうという写実感に満ち溢れていた。ああいう家族描写をすると、必ずリアリティが欠如するが、その辺、細田監督は真っ向から、ウソなく、リアルに描いてやろうという姿勢があって、冒頭だけだったら「これ傑作じゃんかよ!」という雰囲気を醸し出す。

OZというネット社会の説明も端的で分かりやすく、ネットの世界も現実も地続きなんだというところを抑えていて、しかもそれを批判せずに、良いモノとして描いたことも、ぼくは好感を持った。

あと映像。アバターが大暴れするところはそこまでかっこいいとは思えなかったのだけれど、OZというネットの世界がドカドカドカーっと城に変身するところがホントに素晴らしくて、あまりの素晴らしさに声出たくらい。ブルーレイで観たのも大きかったかもしれないが、何億人のアカウントで動くラブマシーンの造型や田舎の風景の引き絵など、とにかく見所多しである。格闘がどうしたとか、花札がどうしたというのもぼくはそこまで嫌悪感はなかった。

――――が、マトリックス』的なものを、田舎の親戚一同だけでやるという設定のせいで、ものすごく一長一短になってしまった。

まず、田舎の親戚の家の中だけで話が進むため、プロットに必要なアイテムやガジェットがその家の中に全部放り込んである。なので、何するにも家の中だけで済んでしまうので、それが鼻に付く。騒ぎの発端になるのも家の中、その騒ぎを助けてくれるスーパーマンが居るのも家の中、騒ぎを食い止めるために、各機関や政府が動きまくるのだけれど、なんとその指示を出すのも家の中。あげくの果てに敵も家の中……人工知能が暴走して、全世界が狙われるんだけど、最終的にその狙いも、なんとその家だけになるという……

あと、この物語にはいわゆるメシウマ的な*1挫折が一切無い。主人公は純粋無垢、ヒロインもすこぶるかわいい憧れの先輩、すごく数学が得意でプログラミングも出来るのに、チャンピオンになり損ねたので、自分に自信がまったくない……これだけの要素がありながらもメシウマ挫折*2がないのは反感買われるのではないだろうか。なんつっても『マトリックス』と決定的に違うのは仮想世界で死んだところで、本人は現実世界でピンピンしてるというところだろう。

さらに、これと言った危機もそんなにない。主人公が指名手配されて逮捕されるが(その警官も家の中だった…)、その逮捕も最終的に関係なくなり、無理矢理付け加えた感が目立った。しまいにゃ、主人公も、その人工知能を作った男も音沙汰無し……な、なんという都合の良さ……

――――それでも、見せ場はたっぷりだし、ハッキリ言えばとても良く出来た作品なのは間違いない。書庫でコンピューターをいじってた子が男の子だったことにはホントに驚いたが、まぁ、細かいこと言い出したらキリないし、脚本を削ったとかいろいろ言われてるけど、それだったら『ホッタラケの島』の方が酷い映画だったので、まぁ、言いたいことはいろいろあるけど、とりあえず、おすすめってことで、「よろしくおねがいしまぁぁぁぁす!!!」あういぇ。

サマーウォーズ [Blu-ray]

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*1:あえて使わせていただく

*2:こんな言葉はないのだけれど