シャーロック・ホームズ


シャーロック・ホームズ』鑑賞。

昔、トリビアの泉だったか、他のテレビだったかちょっと覚えてないのだけれど、シャーロック・ホームズはヤク中だったというトリビアを見たことがある。ロバート・ダウニー・Jr.がホームズにキャスティングされたのはそのへんのリアリティを出すためだったのだろうか?

まぁ、そんな疑問から書き始めるのもどうかと思うが、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』で世界中の映画ファンをノックアウトした後に、『スウェプト・アウェイ』で敵に回すことになったガイ・リッチーの新作を観て来た。

ガイ・リッチーと言えば、ベクマンベトフやザック・スナイダーに先駆けた、スーパースローからギュイーンとハイスピードになるモーション感覚とフリーズフレームを駆使した斬新な映像表現なのだが、『シャーロック・ホームズ』という大作を任されてもそれは健在。アルトマンが『相続人』を撮った時のような「それ、てめーが監督する意味あんのかよ?完全にスタジオのやっつけ仕事じゃんか、ああん?」という感じにはまったくなってない。健在どころか、これ見よがしにガイ・リッチーの刻印がバンバン押されている。一番すげぇと思ったのは『スナッチ』に出て来たベアナックルシーンがそのまんま『シャーロック・ホームズ』にも出て来るところ。ジョン・ウーと言えば2丁拳銃というように、ガイ・リッチーにはベアナックルをこれからもバンバン登場させてほしいところだ。

今作では一枚絵の作り込みがとてもよかった。CGを駆使したエスタブリッシング・ショットの美しさは圧倒的で、その重厚感たるや『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』のようだった。ちゃんと各エピソードごとにショットを使い分けていたので、この辺は細かく映像をぶった切るガイ・リッチーらしからぬ心配りだったように思う。それだけじゃなく、小道具から衣装までとにかく金がかかって凝りに凝っていて、うっとりしてしまう。

――――と、映像は文句無しだったのだが、どうも映画を観ていて盛り上がらない。芯がしっかりしてないというか、ドラマ部分がかなりずさんになっていた気がするのである。ぼくはですよ。ぼくは。

まず、時代設定もあるだろうが、セリフを言うシーンが冴えてない。いわゆる説明ばっかりで、キャラクターの性格や人となりが分かるような会話が一切なされておらず、それだったらいっそのことナレーションかモノローグでいいじゃないか!と思ってしまった。もちろん、あるにはあるんだけど、その会話のやりとりがまったくおもしろくないのである。映像が凝ってるだけに、動きのあるシーンと、動きがないシーンとの落差がとにかく激し過ぎて、退屈してしまうシーンが目立った。しかも、ホームズがトリックを解くシーンも「ええっ!そんなすごいトリックだったの!?分からなかったよ!ダマされた!」という感じにまったくならなかったこともすごい。ハイスピードで処理されてるところも、モヤモヤに拍車をかけるだけだった。

会話で盛り上がらないのなら、アクションだ!と言いたいところなのだが、そのアクションも派手なのだけれど、比較的少なめで、ドラマ部分が盛り上がらないため、「よっ!待ってました!」という風にはならない。取ってつけたようで、それぞれの熱量みたいなものが違って見えてしまう。この辺のカタルシスは2時間半あってアクションがまったく無かった『イングロリアス・バスターズ』と比べると一目瞭然である。

あと、悪役だ。ちっとも魅力的じゃない。『TRICK』に出て来るみたいなチンピラ霊媒師みたいで、全然怖くもないし、強くもなかった。つーか、あいつは何をしたかったのだ?ホントによく分からなかったぞ。地球征服?なになに?最後の決着も、あれほぼ運じゃんか。運がよかっただけじゃんか。

ただ、それでも年増の恋愛映画やなんちゃらかんちゃらの冒険やふんちゃらTHE MOVIEよりは遥かにマシなのだ。むしろ役者もスタッフも監督も全員が良い仕事をしている。

というわけで、ガイ・リッチーが撮ったことで個性的なハリウッドアクションになった『シャーロック・ホームズ』は続編に期待したい。ただ、『シャーロック・ホームズ』って時点で、誰もが分かってるキャラクターなんだから、人物描写を掘り下げずにミステリーとアクションのつるべ打ちみたいに出来たはずなんだよなぁ…あういぇ。