現実は映画を余裕で越える『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』
『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』鑑賞。
2008年の世界金融危機はいかにして起きたのか?
――――その成り立ちから実態、そしてその後世界経済はどうなっていったのか?までを追い、その現場に居た人間や当時政治家として活動していた人、大学教授、ジャーナリスト、作家など、これでもかという人数にインタビューし、徹底的に暴いていくドキュメンタリー映画。
作品は5部構成になっていて、本にしたら何冊分ですか?という情報量を持っている。3時間くらい必要なのでは?という感じで映画は進んでいくのだが、序盤からギアはトップで、とてつもないスピードで駆け抜けるような作品に仕上げた。マット・デイモンがナレーションを担当しているのだが、とても早口で、特になぜ金融危機は起きてしまったのか?を説明する前半は追いつけないほど。ランタイムも109分というタイトさである。
映像で分かりやすく説明するという演出は皆無で徹頭徹尾、関係者へのインタビューとその当時ニュースで使われた発言*1だけで構成されている。他の映像を使った説明が出て来るが、それはあくまでおまけ程度。次から次へと、いろんな人が出て来ては消え、また現れ、また消えというのが繰り返されるために、相当な集中力を持って鑑賞しないと置いてけぼりを喰らうこと必至だ。
『スナッチ』が公開された際、「ものすごいスピードで登場人物が紹介され、ジェットコースターのように終わるから、誰が誰だか覚えられない」なんていう感想があったが、まさにそれがこの作品にも当てはまると言える。映像的には人が喋ってるだけで何も起こってないにも関わらず、あたかもガイ・リッチー作品を観たかのような興奮と感動が待っている。
ぼくは経済のことがまったく分かっていないため、それも含めて分かりやすく描いているのかなと思っていたが、まったくそんなことはなく、出て来る用語の数に??マークが点灯しまくりで、さらにそれがとてつもないスピードで出て来るので、置いてけぼりを喰らってしまうところが多々あった。何も分かってないところから、優しく説明しようという意志はまったく感じられず、いちげんさんお断りな硬質な映画だったなというのが、まぁ、正直な感想である。
ただ、そんな中でも、この作品を見てショックだったのが、人間とはここまで罪の意識を感じないものなのか?というところだ。金融危機になるであろうことは、これらに関わってる人は誰もが予測出来たのだが、彼らは底の知れない強欲でもって、金をかき集めて、最終的に一生かかっても使い切れないような額を持ってとんずらするのだ。罪に問われることもなく、会社も退職扱いのため、退職金も普通に暮らしていれば一生使い切れないような額をもらい、何千万人という失職者を出したにも関わらず、オレが儲かればいいやというツラで飄々としている。
『ウォール街』を観た時にゴードン・ゲッコーは底抜けの欲望でもってマネーゲームを楽しみ、人の不幸など屁にも思ってないヤツだなと思ったが、それ以上のことが現実に起きていて、さらにそれが数十人もいたのである。ゴードンは映画のラストで逮捕されたが、現実はそうはいかないのだ。
さらにショックだったのが、大統領がオバマになっても何も変わらなさそうだなというところ。映画はその部分にもメスを入れているのだが、何も知らないなりに、オバマになったら何かが変わるかもしれないと普遍的に思っていたので、強烈なカウンターパンチを喰らったような気分である。
というわけで、現実は映画を越えたということをマジマジと見せつけられたわけだが、これは多くの人に観て欲しい作品だ。確かに地味で、難しいが、普通に報道ステーションとか見たり、毎日経済新聞を読んでるような人ならあのスピードにもついて来れるだろう――――と、最後は小学生がいうみたいな感想になってしまったが、おすすめである。あういぇ。
*1:取材に応じなかった人のみ