花山椒的なアクセントにシビれる『カンフーパンダ2』

『カンフーパンダ2』鑑賞。

前作は香港カンフー映画のフォーマットに敬意を払いつつ、あくまでもそれをスパイスとして効かせ、ハリウッドのアニメーションとして昇華させた傑作で、カンフー映画というジャンルはついに揶揄されることなく、メインストリームのアニメとして作られるようになったかと感動を覚えたが、ご多分に漏れず、続編である今作もそのクオリティを下げることなく、安心して見られる作品に仕上がっている。

前作で話は完結しており、そこからポーの出生について語られるという展開はいささか強引かと思われたが、違う流派の抗争に孤児が巻き込まれていくというプロットは、ジャッキー・チェンの『蛇拳』を彷彿とさせ、それにひと捻り加えたという印象。ストーリーのひな型から映画は脱線しようとし、シリアスな展開であっても、笑いを一切忘れない*1。基本的には細かい部分でオフビートになり、それが随所に現われるが、それもこれも前作でポーというコメディリリーフを完成させた結果だといえる。

時折、2Dセル画のようになるが、中国風なオリエンタル調の絵柄になったり、冒頭はそれの人形劇風であったりと、映像のクオリティはハンパじゃなく、グリングリン動き回るカメラの中にピョンピョン飛び跳ねるキャラクターと、監督が代わっても、製作チームとして完璧に機能しているように思えた。

さて、前作もそうであったように、今作も香港カンフー映画のオマージュが満載だ。冒頭の立ち回りでは詠春拳のような手数の多いパンチが飛び出し、さらには『キル・ビル』にも引用された『新・片腕必殺剣』のブレイクダンス風アクションも登場、中盤のチェイスシーンは『奇蹟/ミラクル』や『ノック・オフ』風で、香港映画にかかせない獅子舞もプロットにうまく組み込まれている。今回の敵である孔雀は『ヤングマスター』の鉄扇を意識しており、それぞれのカンフーの型が動物化しているという前作のお決まりにツイストを利かせ、ラストには『少林サッカー』の太極拳と同じ動きのアクションが登場*2。とどめにはブルース・リーの鼻をこする動作まで出て来る。

しかも、この作品はこれらをこれみよがしに引用していないところに好感を持てる。つまり、この『カンフーパンダ』というシリーズは、あくまでこの要素を花山椒のようにアクセントとして使っているにすぎないのだ。そこに独自の物を作ってやろうという意志を感じる。実はこの作品、本編の至るところに“それっぽい”引用が山ほどあって、香港映画に対する敬意をそれ全体から感じ取れるのだが、それらの元ネタが明確ではないため、これはこれだよね!という指摘がまったく出来ないのである。

というわけで、それら香港映画のオマージュに舌が痺れること必至な『カンフーパンダ2』はやはりおすすめ。クライマックスというか、決着のつけ方がやや弱い程度で、90分安心して楽しむことが出来ます。あういぇ。

*1:せっかく登場したポーが高らかに喋っていても遠すぎて聞こえないとか、投げた武器が届かないとか

*2:しかも球形のなにがしを操るというおまけつき