おもろい話をするおっさん、押井守

押井監督の『勝つために戦え!〈監督篇〉』を読了。

勝つために戦え!〈監督篇〉

勝つために戦え!〈監督篇〉

ぼくはリアルタイムで押井監督の作品を観て来たわけじゃないし、全部かかせず観る!っていうスタンスじゃないんだけど、初めて観たのが『攻殻機動隊』で、この映画がまぁ、平たく言うとすごく衝撃的だった。

一見、草薙素子の造型とか、かっちょいいガンアクションに目を奪われがちなんだけど、押井監督ってのは本質的に人間の在り方みたいなもんを追及してんだなって素直に思った。人間の自己を支えてるのは何か?というテーマをちゃんと順序立てて描いている。

ざっくり書くと、人間は記憶と言葉で形成されていて、それさえあれば自己は保てると、だから手足が機械になろうが、感情が無くなろうが、それでも人間は人間足り得るということを主張してくる。

ラストで素子は自分の身体を捨て、言葉と記憶をコンピューターにぶち込んで生きることを選択する。一言でいっちゃえば『攻殻機動隊』は『2001年宇宙の旅』と『ブレードランナー』を足して80分にまとめあげたSF映画だったわけだ。

こうやって書くと分かるように、押井監督というのは、お固い映画を撮る人なんだなぁという印象があると思う。難解なことを難解な言葉でいう節もなくはないだろう。

ところが、これを一気に覆す作品が現れた、それが『ミニパト』だ。

ミニパト』で押井監督は脚本を担当したのだが、この脚本にぼくは大爆笑させられたのである。

これまたざっくりと書くけど、この『ミニパト』というのは、大泉洋水曜どうでしょうで言う大ボラと一緒で、とにかくウソ八百しか言わない。ところが、そのウソ八百をあたかもホントであるかのように、大真面目に堂々と言ってのけてしまうのだ。大量のうんちくもあるのだが、どこからどこまでが本当でウソなのかよく分からないくらいの量を詰め込んで来る。

この手法は『立喰師列伝』でも遺憾なく発揮され、ぼくはその方法でまたも笑わされてしまった。故に、ぼくは押井監督作品でいわゆるハズレ的なものを引いたことがなく、退屈と言われる『アヴァロン』もDVDを買って何度も観てるくらい好きだったりする。

言ってしまうと、ぼくの中で押井守という人は『ミニパト』の印象が強すぎて「普通の人が考えないようなことを一生懸命考えながら、おもしろい語り口で話をするおっさん」という認識をしてしまっている。

『勝つために戦え!〈監督篇〉』も、その感覚で監督論を雄弁に語ってるわけだが、やっぱり、このおっさん、考えてることとそれを語る時の語り口がバツグンにおもしろいのである。

押井監督は作り手として、ヒットさせるさせないとは別の勝敗があるんだという考え方の持ち主で、それがまぁ、押井論として語られるわけだが、この強引とも言える論が軽妙でおもしろく、間違ってるか、間違ってないかは別にしても妙に納得させられるのだ。

大ヒット一発当てて消えて行くのと、スマッシュヒットをある程度出して、最高傑作というものを作らずに、ファンに支持されるのではどっちがキャリアを築くうえでの勝ちなのか?というのを、有名な監督のキャリアを総括しながら語っていくんだけど、ある程度映画の知識も必要で、よーわからん引用も多いが、それについてこれるとかなり楽しめるんじゃないだろうか。特に三池崇史とデル・トロについて語った章がおもしろかった。

というわけで、押井監督の信者にも、アンチ押井守の人にもおすすめ出来る一冊。作り手の立場からの視点というのも、誰も本にしなかったりするんで、そう言った意味でもおもしろいと思う。あういぇ。

ミニパト [DVD]

ミニパト [DVD]

立喰師列伝 通常版 [DVD]

立喰師列伝 通常版 [DVD]

EMOTION the Best GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 [DVD]

EMOTION the Best GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 [DVD]